「これまでのあらすじ！　身体測定当日、去年と同じ性転換騒動に校内はどったんばったん大騒ぎ！　そんななか新たな刺客として立ちはだかるのは暗黒生徒会と名乗るジュンとネネ！　二人に逢うとなぜかみんなあんなポーズやこんなポーズで固まってしまった！　このフツウじゃない事件の首謀者達にやれやれだぜと思った矢先、俺は――」

　ま　た　女　子　に　な　っ　て　し　ま　っ　た　……！

　ここは、寝子高３年生教室前の廊下。
　愕然とわが手を見つめる桐野 正也。
　震える指先をゆっくりと自らの胸元にあててみれば、そこにあるのはむにゅっという柔らかい感触。
「女子になってしまった結末は読者諸君でさえわかるだろう……だが、だがしかし！」
　それからその手はゆっくりと自らの頭に……。
　そこにある、あり得ない感触と、視界の端に移る白いレースは、正也にさらなる衝撃を与える。
「なぜ俺はフリフリエプロンでネコミミを付けている！？」
　読者諸君、安心してほしい。
　女の子になった正也は黒髪のボーイッシュな女の子で、猫耳エプロン姿がとってもキュートだ！
『そういう問題じゃない！！』
　正也の＜思ったー＞が発動し、叫び声を示すギザギザの吹き出しが、猫耳の背後にばばん！と現れた。
　真っ赤になって慌てて叩き消しながら正也は叫ぶ！
「どうやったらそうなるんだ！？　なんで俺だけしょっぱなからハードモードでスタートしなきゃいけないんだぁぁぁぁぁぁぁ」
　けらけら、と友人たちが笑い転げている。
「きりのんサイコー☆」
「超似合ってるよぅ！」
　恥かしさに口唇を噛んでキッととニラむも、やんやと囃し立てる友人の志波 武道と呉井 陽太も潔いまでに武美ちゃんと陽子ちゃんになっているので、怒りが失せる。けっきょくのところ、彼らも性別反転のろっこんの持ち主・播磨 愛李子の爆走の被害にあった、いわば同志なのだった。
　ちなみに、武美ちゃんは長髪の清楚系アイドル風美少女で、陽子ちゃんは身長１６０センチほどの糸目でロングヘアの少女である。生徒会に所属する眼鏡な二人が美少女になると、立ち並ぶだけでなかなかの迫力だ。
　そんな武美ちゃんの背後から、にゅっと褐色の手が伸びる。
「たっけみちゃーん。ええ乳に育って……」（もみもみ！）
「ひゃ、きゃあっ！」
　突然ノーブラの胸を揉まれた武美ちゃんは、自分でもびっくりするような裏返った悲鳴を上げた。
　振り返ればそこにいたのは明るい赤茶色の髪をお団子ハーフアップのゆるカールロングヘアにした、高身長の女子。男子の制服だが胸元がきついのか上のほうのボタンを開けていて、深い谷間が見え隠れしている。
　右目が黒、左目が白という特徴的なオッドアイをみて、武道ははたと気づく。
「まさか……剛くん？」
「大当たりー！」
　服部 剛――今は服部ちゃん――は、自分の胸をむにゅっと持ち上げ、けらけら笑った。
「これ見て！　乳でっかい！！　空飛んでみるもんやなぁ！　人に轢かれただけやけど！」
　揉み続けている服部ちゃんの胸のサイズは、たぶん、Ｄだ。
「これ本物やろか？　それともぜーんぶ夢なんか？　ううむ……おっぱいは宇宙……」
　人間、急に興奮すると逆に真顔になるものらしい。
　むつかしい顔になって、宇宙の深淵に想いを馳せる服部ちゃんの頭に、すぱこーんと手刀が落ちる。
「まったく男って……胸がでかけりゃいいんですか！」
　見かねた鬼崎 つくし（身長１８０センチの中性的なイケメン（巨根））である。
　……さらっと書いたが、なんか多分大事だと思うのでもう一度。
　中性的なイケメン（巨根）である。
　このときつくしの頭からはこの人たち先輩だとかそういことはすっかりすっぽ抜けていた。
　つくしはわなわなと自らの股間に手をやる。
「酷い目に会いました……まさか人間ダンプカーにひき逃げされるとは……しかも性転換ですよ……何か下半身に違和感ありますし！　でも胸の方は喪失感ないですけどね！　こういう時、ちっぱいは安心ですね！　畜生！！」
　血涙を流すつくしに、それなりに乳ばぼーんな美少女になった男子たちはかける言葉がない。
「げ、元気出して」
「ご、剛さんが揉んであげよか？」
「巨乳女子に胸板揉んでいただいても、たぶん下しか大きくなりません！」
　あ、下は大きくなるの……？　と思わず見つめる股間部分。男としてはある意味羨ましい物体がそこには収められているのだが、如何せん今は女子スカートに隠されている。
「どこを見てるんですか！」
　つくしは、ぎり、と奥歯を鳴らす。
「イエ」
「ナニモ」
「……」
　つくしは打ちひしがれたように肩を落とす。
「ああ……このままではお兄ちゃんに会えませんし……どこかに隠れることにします……」

　一方。突然の性転換騒動の主、猪突猛進ガール播磨愛李子はうわああわああと叫びながら次々に廊下に顔を出した人々を跳ね飛ばし続けていた。
「播磨暴走だって！？」
　つくしが立ち去るのと入れ違いに廊下に飛び出してきた『お兄ちゃん』こと、冴木 竜司もまた。

　ドーン！

「うわあああ！」

（あいつは一年間友情を育んだ元クラスメートだ……暴走を止めるのに理由なんているかよ）とか。
（多分暴走理由、またショーゴ君関連だろうが、静まるんだ！）とか。
（播磨さん！　このままだとただの猪だよ！）とか。
　いろいろ言おうと思っていたセリフが走馬灯のように脳裏を過ぎったが、そのどれも、口にする間も無く竜司の身体は宙を舞っていた。
　そして。
　ドスン！　と床にたたきつけられたときにはもう、竜司は竜子になっていた！

「いたた……って、何じゃこりゃ！？」
　竜子は自分の身体を確かめ真顔になる。
「……性転換するとロリ巨乳になるなんて……流石俺だな！」
　刹那、はっと身体に電流が走って、開眼する！
「この姿でまゆ先生に近づけば……まゆ先生に邪険にされないのでは？」
　思い立ったら行動に移す男、……いや、女、竜子！　さっそくまゆ先生を探してダッシュである。

　さらに開幕タックルで吹き飛ばされた哀坂 時音は、長い赤髪をかき上げ、玻璃のごとき蒼い瞳を瞬かせる。
「何だ、これ、は……時音に『アレ』が、ある、だと……？」
　触れれば切れそうな美貌の美少年。それが今の時音の姿だ。
　股間の違和感に触れ、しばし瞑目ののち、ぬるりと赤い舌を出して上唇を舐める。
「……気持ち悪い、が、これはチャンス、だな」
　時音は、カ オ ス に 目 覚 め た ！
　もともと男が嫌いで、綺麗な娘や可愛い娘が大好きだ。（男の娘はセーフらしい）
　そして目の前では男子たちが美少女に変化しまくっているではないか。
　こんな機会を逃してどうする！
「男が女になるのは、良いが、折角の美少女を、男にするのは、勿体ない……勿体ない、な。まぁ、良い。時音好みの美少女、探すだけだ」
　美少女ハンター時音、爆誕の瞬間であった！

　時音は立ち上がると、さわやかに髪を靡かせながら歩き出した。
　行く手に、奇妙なポーズで固まる筋肉質な二人組がいる。
　好みではかったのでスルーして、時音は階段を下りて行く。
　好みの美少女はきっとこの先にいるに違いないという確信を胸に。
　背後で陽子ちゃんや武美ちゃんがわあわあ騒いでいる。
「うわぁ、開幕タックル喰らった人がここにもいるわ！」
「へんなポーズで固まってるわよぅ！」
　……ふたりとも、早くも女の子口調が板についてきたようである。