キミガダイスキ｜リアクション

キミガダイスキ

■ステップアップを秘めて
　桜花寮の自室で身支度を整えるのは小山内海。
　柔らかな輝きを持つ茶色の髪をサイドテールに整え、春らしく愛らしい格好を選ぶ。
　先日の九夜山のお出かけは御剣刀との二人きりだったが、今日は橘千歳も一緒のお出かけでもあり。
（……楽しみ）
　思わず海はニッコリと笑みが零れる。鏡の前でクルリと回ってみれば、柔らかにスカートが翻った。

　愛用のスケッチブックとカラーペンを携えて。
　海は桜花寮を出発しシーサイドタウン駅へと向かう。
　今日は三人でシーサイドアウトレットやマリンパラダイスに出掛ける予定だ。
　駅へと向かう途中、不意に海は不思議な香りを感じた。
（なんだろう？）
　何かの花の香りだろうか、柔らかい香りを海は胸いっぱいに吸い込んだ途端、大好きな二人の姿が脳裏に浮かび上がった。
　言うまでもなく、これから逢う二人――刀と、千歳の顔。

　――早く、大好きな二人に、会いたい

　自然と早まる海の足。
　まだまだ待ち合わせ時間に余裕はあるはずなのに、駆け足に近い速度になる程。
　焦る気持ちは、海の足の速度を速める。

　こうして急ぎ足で向かったこともあってか、待ち合わせ場所に到着したのは海が一番乗りだったようだ。
　黙っていても人目を引く凛々しい容姿を持つ刀の姿も、クールビューティーな千歳の姿も見当たらない。
　焦って走ってきたことにより、鼓動が乱れる海。
（このまま二人が現れなかったら……）
　そんな不安すら感じてしまうのは、孤独を苦手とする海にとって仕方のないことで。
　乱れた呼吸と不安な気持ちを抑えるように、海は大きく深呼吸を行った。
　スゥッと空気を吸い込み、大きく吐き出す。
『落ち着け』
『大丈夫よ。小山内さん』
　優しく笑みを浮かべる二人の姿が見えるかのようで。海はそっと、安心の表情を浮かべた。
　だが不安は収まる一方、むしろ二人への想いは強まり……
（どうしよう、ドキドキ、止まらない）
　自然と上気する頬の熱も収まらぬまま、海はキョロキョロと辺りを見回すのだった。