土掘り妖精の宝物～或いは、貴方の為の埋蔵品～｜リアクション

土掘り妖精の宝物～或いは、貴方の為の埋蔵品～

　噂を耳にした八神修は「おまじないみたいだな」とふっと目元を綻ばせた。
「ねずみたいな種族もいるんだし、そういう妖精もいるかもだね」
　その日の深夜のこと。修は、使用人にバレないように庭へと向かった。
　何枚かのクッキーと、葉っぱの器に入れた蜂蜜。
　それを土の傍に供えてお願いの言葉を唱え、修は暫し待った。
　やがて、何となく土が盛り上がったような気がして、シャベルをそっと差し入れる。
（掘って何もなくても、運ぶに時間が足りなかったと解釈しよう）
　胸中に言い聞かせた途端、ふわりと現れたのは光の塊だった。
　手に乗せれば、思い出が、修の心を柔らかく満たしていく。
　ああこれは、栗毛の愛馬に初めて乗った日の出来事だ――。

　場所は、緑豊かな牧場。
　幼い日の修は、優しくて賢い愛馬――ラファールへとそっと手を伸ばした。
「ラファール、会えて嬉しいな」
　美しい毛並みを、柔らかく撫でる。
「ちょっと……ううん、かなり馬臭いね」
　愛らしいかんばせを僅かに歪めた修の隣で、つなぎを着たお兄さんが微笑んだ。
　お兄さん――牧童の青年だ――とは対照的に、きゅっと真剣な表情を作る修。
「でも、これが馬の臭いだもんね。僕、大丈夫だよ」
　ぎゅうと、修はラファールへと抱きついた。
　温もりが、身体中に染み渡る。
「あたたかいね、大きいね。……え、もっと大きくなるの？」
　そんなやり取りの後、修はお兄さんに、ラファールの背中へと乗せてもらうことになった。
　修の頭より、ずっと上の方にある背中に。
「えいっ！」
　力強い手が、修をふわりとラファールの背中へと誘った。
　前に修が乗り、後ろに座るお兄さんが修を守るようにしてくれる。
　修は暫し、胸をドキドキとさせながらラファールの首にへばりついていた。
　やがて、ドキドキが幾らか治まり、落ち着いて身体を起こしたその瞬間。
「わあ！　凄い！　凄い凄い！」
　修は興奮に頬を紅潮させて、わあわあと声を上げた。
　上からの視界、高みからの景色。
　今まで知っていたのとは全然別の世界が、そこには広がっていた。
　それは修にとって、小さな革命と言っても差し支えのない出来事で。
　感激しきりの修を乗せて、ラファールがゆっくりと動き出す。
　その上下すらも、修には新鮮な驚きだった。
　手綱を持つお兄さんが、優しく丁寧に指導をしてくれる。
　その話を懸命に聞いて、修はこくりと頷いた。
「うん、大丈夫。僕は大丈夫」
　さあ、と、修は瞳を煌めかせる。
「出かけよう！　緑の牧場の大冒険だ！」
　ラファールが、応じるようにして一声嘶いた。

　光の塊が、手の中で消えていく。
　それを見送って、修は、ほうと深く息を吐いた。
　あの日の感動が胸に宿り、じんわりと心をあたためる。
「――妖精に、感謝しないといけないな」
　呟きが、唇を揺らした。
　今は馬術馬として星ヶ丘ホースクラブに預けているラファールの姿が、頭を過ぎる。