脱ぐな！　風紀委員会との戦い｜リアクション

脱ぐな！　風紀委員会との戦い

「んー、やけに暑かですね……。制服脱ぎたい気分です」
　黙っていれば美少年な倉前七瀬は、特に葛藤することなくマイペースに制服を脱ぎ始めた。
「……一枚着てれば大丈夫か。全部脱いだわけやないので、よかろうもん」
　上着とズボンを脱ぎ去り、ワイシャツ一枚になる。
　下着はちゃんと穿いているのだが、シャツで隠れているので、パッと見穿いてないように見えてしまう。
「というか、他の人もたくさん着込んどって暑苦しくみえます……よし、脱いでもらいましょう」
（女子に脱いでくださいとお願いするのは、さすがに失礼になるけん、お願いする相手は男子だけにしておきます）　
　七瀬は他の男子生徒に声をかけ始めた。
「そ、そうだよな、暑いよな」
　欲求に耐えかねて陥落する生徒もいる。
　逆に七瀬を脱がそうという者もいたが。
「ワイシャツも脱げ？　……さすがにこれはやめときます」
　さらりとかわして次の相手の元へ向かう。
　
「風紀の乱れも極まれりだな」
　辺りの変化に気づいた八神修は眉を顰める。
　風紀委員ではないが、意志力で脱ぎたい衝動を抑え込もうとしていた。　
「下品だろ。多少神魂に異常があったとしても脱いじゃだめだろ。そこは自制しろよ」
「ってそこおおお、何をぶらぶらさせて走ってる！　目にも心にも優しくない！」
　裸の男子生徒にタオルを投げつける。
「せめてタオルを巻け！」
　そこで修は、近づいてきた七瀬を見つけ呆然とした。
「……倉前先輩まで」
「あまりに暑くて制服ば脱いでしまいました。制服をちゃんと着とかんといけんのはわかっとるのですが、どうしても脱ぎたい欲求に勝てませんでした……まあ、こんな日もありますよね！」
　爽やかに言う七瀬に絶句した。
「修も、その格好暑くないですか？　脱ぎましょう」
　いつものんびりしているので気づかれにくいが、七瀬は意外と意志が強い。
「先輩……せめて夏でここがプールならまだ救いようもあったのに……」
　迫ってくる七瀬にたじろぐ修。
「いや、俺は……」

「倉前、何をしてるのかなあ？」
　そこへウォルター・B先生が現れた。
　担任であるウォルター先生ににっこりと声をかけられても七瀬は平気な顔だ。
「ウォルター先生も、そんな服着とらんで脱いでしまったらどうですか」
　近寄ろうとする間もなく、七瀬はチョークをくらっていた。
「うぅ、やっぱりウォルター先生の投げるチョークは痛かです」
　つぶやきながら七瀬は倒れる。
　脱力し汗をぬぐう修。
「八神、君までどうしたんだい？」
　射撃部の顧問でもあるウォルター先生に不思議そうに聞かれるが。
（先生はひとだ。理由を言うわけにはいかん）
　歯がみしながら修はつぶやく。
「……俺が脱ぎそうになったら容赦なく粛清してください」
　血の涙を流さんばかりの修に、ウォルター先生はあっさり答えた。
「もちろんだよ、任せておきなさい。それじゃ、僕は取締まりに行くから」

　たまらず修は走り出した。
（走れば走りに集中するから衝動が減る。絡まれることもないしな）
　品性を賭けて。修はひた走る。