脱ぐな！　風紀委員会との戦い｜リアクション

脱ぐな！　風紀委員会との戦い

（う、うぅ……脱ぎたい脱がせたい、駄目……！）
　恵御納夏朝は、普段は全然考えない欲求に必死に抗っていた。
「絶対、神魂の仕業だ……！」
　原因はわかっても、欲求を止めることができない。
「脱がない為には着なきゃ」
　脱いだばかりの上着を羽織ろうとするが。
「でも脱ぎたい……」
　指が勝手にブラウスのボタンを外す。
「っ、着なきゃ羽織らなきゃ！」
　脱ぎそうになったら何か羽織って、それを脱いで。
　何でも着て羽織って脱いで羽織って混乱して羽織って……
　
　そこへ、修が走ってきた。
「八神君……どうして走ってるの」
　服を着ていることに安心しながら、話しかけてみる。
「欲求の昇華に運動を使うのは定番だろ」
　クールに答える修だが、額に汗が光っている。
「暑くない？」
「確かに暑いな……」
　途端に脱いで涼しくなりたくなる。修の手は上着にかかった。
「はっ！　いや、いかんいかん。脱いだらアウトだろ」
　そしてそれを見ている夏朝も……
　ゴツン。
　いきなり壁に頭をぶつける夏朝。
「恵御納、何を」
　そう言った修の手が、止めようとしたのか前へ伸びる。
「今のうちに逃げて……脱がそうとしたら多分ぶちのめすと思うから逃げて……！」
　夏朝の言葉に、動きだしそうになった手を止め、一瞬後に修は走りだした。

　それを見送りながら、夏朝は近くに寄ってきた猫に手を伸ばす。
「撫でさせて……」
　撫でて、もふれば、この衝動を忘れられるかもしれない。
　だがそう思ったのもつかの間だった。
　猫さんさえもこの欲求を止められないなんて！
　そして脱がそうとする生徒が夏朝に迫る。
「こっちに、来るなぁぁぁ！！　わぁぁん……助けて、風紀いいーん！」
　半ばパニックになる夏朝は箒で応戦する。
（下着類は無理にでも死守しなきゃ……そうだ、ねこシール！）　
　夏朝はねこシールを取り出し、貼ってろっこんで自分のあちこちを重くする。
「脱がない脱がない重くすれば脱がない脱ぎたいない……！」
　さらに進化能力でねこシール飛ばし、巻き添えで他を重くする。
　脱がそうとした生徒は、そのまま撃沈した。

　しかしシールの効き目は永続せず、内なる欲望は夏朝を苛む。
　今風紀委員のチョーク投げや取締りを食らったとしたら、夏朝は泣いて喜んだだろう。
　その時、救いの手が差し伸べられた。

「抑えきれないならさあ存分に脱がすといい」
　旅鴉月詠は抱えた人形を下ろす。台車にはたくさんの衣装が積まれていた。
「……それは？」
　夏朝が尋ねると。
「家庭科室からマネキンを用意した。名前は寝子花子」
「……名前があるんだ」
「さらに家庭科室やコスプレ部から衣装を借りてきた」
　そう言うと月詠は、マネキンにブロンドの鬘をつけ、マジシャン風の服装に着替えさせる。
「それって……」
「抑えきれないならさあ存分に花子を脱がすといい。脱がされる事においては花子は寝子高随一のポテンシャルを持つモデルだからどうぞ遠慮なく」
　どうやら月詠は脱ぎたい欲求があまりない代わりに脱がせたい欲求が強いようだ。
「あり、がと……脱がさせてもらうよ、寝子さん」
　夏朝が花子の服を脱がし始める。
「神魂であることは解っている。解っているから便乗している。危険ではないことを理解しているから」
　危険ならとっくにテオが隔離している、と月詠は考える。
「逆らうだけが解決策ではないのだ。乗りこなしなさい」
　そう言うと、花子が脱がされた端から次の衣装を着せていく。
「何故脱がすかといえば、着せる為である。少々乱れた服から漂うエロスてよくない？　男女問わず」
　真顔でそんなことを言う芸術科の月詠である。
「脱がしてもよいが、もれなく衣装を着せるけどよいか？　露出控えめ、着るのも脱がすのも大変なゴシック系の衣装をご用意致しました。ガッチリフィット。脱がしたい側が脱がしがいがあるように」
　それを聞きながら、熱に浮かされたように花子を脱がす夏朝。
「髪型はどんなふうにするかな」
　月詠は花子のブロンドの鬘をツインテールに結いながら言う。
「あとは私は絵を描いてるからお構い無く。私の前で脱いだり着たりするなら描いてあげよう。本日は少女漫画風だ」