難攻不落、ＤＩＹ魔王城！｜リアクション

難攻不落、ＤＩＹ魔王城！

■工藤事務所兼魔王城
「魔王様！　魔王様ー！」
　ダッシュで部屋に飛び込んでくる家臣。ドアがばーんと開け放たれ、暗い部屋に逆光がさした。
　部屋に光源は二つきり。開いた扉と、デスクのスポットライトである。
「うろたえるな！」
　眼鏡を光らせ振り返る工藤来夢。劇画調。
「冬コミの締め日はまだ先だ！」
「その話じゃないです！」
　互いに叫びあい、スッと身をひいた。
「ないか……」
「ないです……」
　一拍おいたところで、デスクへと戻る来夢。
「じゃあ担当に今週分の締め切りを延ばすように言え」
「それはもう言いました。泣いてました」
「よくやったわ」
　デスクに向かって何かをカリカリしている来夢。それをじっと見守る家臣。
　家臣はハッとして表情を劇画調に戻した。
「違う！　勇者が攻めてきたのです！」
「早く言え！」
　来夢も顔を劇画調に戻した。

　暗い部屋の中、ブラウン管テレビに映るは勇者ご一行。
　『う～魔王魔王！　今魔王を求めて全力疾走している僕はごく一般的な勇者。強いて違うところをあげるとすれば戦士と盗賊が仲間ってところかナ。名前は――』
「ええいテンプレはもういい！」
　そいやあと言ってテレビ画面をパンチで破ると、来夢は立ち上がって振り向いた。
「魔物（アシスタント）はどこ！？　今すぐ蹴散らすように言いなさい！」
「全員逃げました」
「どうしてよ！　一ヶ月連勤させたくらいじゃないの！」
　キッと家臣をにらんで、家臣のキングオブ真顔と暫く向き合った。
　コホンと咳払いする来夢。
「仕方ない。罠を使うわよ」
「御意！」

　魔王城を突き進む勇者一行。
　一切モンスターの出てこない状況にそろそろ罠臭さを感じてきた頃……。
「見ろ！　あんな所に宝箱が！」
　盗賊がビシッとあさっての方向を指さした。
　そんなまさかと振り返る勇者と戦士。
　見てみると、半開きになったザ・宝箱が金ぴかの剣やメダルやアクセサリーや液タブがこんにちわしていた。
　ごくりと生唾を飲み込む三人。
「い、いやいやいや。いくら魔王城だからってあんなあからさまな宝箱が」
「そうそうあるわけないあるわけない。あんなのに近づくのはよほどガメツいやつくらいだ。そんなやつ誇り高き勇者パーティーにいるわけが――」
　とか言ってる間に盗賊が水泳のダイブ姿勢で飛び込んでいった。
「ひゃっほーう！」
「「いたー！」」
　それをキッカケに壁から毒ガスが噴出。
　ガスを吸った盗賊や戦士は、ありもしない禍根を思い出し、身に覚えの無い恨みを抱き、勇者に襲いかかるのだった。
「どうしたんだ皆！　や、やめてくれー！」

　かくして。
「思ったより酷い目に遭ったようね」
「くっ……」
　鎧がひっぺがされ、色々乱暴（ここでは暴力的な攻撃行為をさす）された勇者が歯噛みしていた。
　それを来夢はとっくりと眺めた後、Ｇペンを手に取った。
「それでもここまでたどり着いたことは褒めてあげるわ。仲間を斬り殺して達成した気分はどう？」
「くっ……しかしここで魔王を倒せば仲間も報われるというもの。魔王覚悟！」
　剣を構えて立ち上がる勇者。
　……を、囲むモンスターたち。
「なに！？　モンスターを温存していたのか！？」
「フッ、そういえば言ってなかったわね」
　来夢は眼鏡を中指でくいっとやると、漫画原稿を翳して見せた。
「私の能力は画に描いた魔物を具現化するのよ。私の生み出したモンスターにもみくちゃにされるがいいわ！」
　一斉に咆哮するドラゴン、ゴーレム、青いつなぎのいい男。
「うわあああああああああ！」

　もみくちゃにされる勇者を、来夢はポテチ囓りながら眺めていた。
「家臣、家臣。ここは『アーッ』じゃない？」
「それは別作品でございます魔王様」
　かくして魔王城の平和は守られた。
　あと締め切りは延びなかった。
　めでたしめでたしである！

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