ハピネスサンドイッチ！｜リアクション

ハピネスサンドイッチ！

「スランプですか、それはお辛いですね。
僕も何か協力しましょう、サンドイッチは好きですし」
　散歩の途中にハムおじさんのチラシを受け取った志波甲斐斗は
協力を申し出るが早いか、スーパーへと向かって
思いつく限りのサンドイッチの材料を買いそろえた。
大量の食材を工房に持ち込んで、今は試作の真っ最中だ。
自身の作るものに妥協を許さない甲斐斗の性格が、
試作のない作品の完成など許すはずがなかった。
「料理は専門外なので、そこまで凝った具にはできないと思いますが……
まあ、僕が食べたいサンドイッチ、ということで」
　そう言って甲斐斗は、手始めに調理台の上から食パンを取り上げる。
「僕が食べたいサンドイッチなので、食パンはまず耳を切り落としたものを。
これをベースに具材を考えていきましょうか。まずは、王道のチーズ系」
　甲斐斗が調理台から選んだのは、クリームチーズ、はちみつ、コショウ。
耳を落とした白いパンに試しに挟んで、早速試食。
チーズとはちみつの豊かなコクに、コショウのアクセントが加わって
クアトロフォルマッジ風の味わいだが……。
「ピザで食べたいですね……」
　柔らかなパンでは食感が物足りず、甲斐斗は次の食材に手を伸ばす。
次に手にしたのはクリームチーズ、ワサビ、しょうゆ、鰹節。
手早くパンに挟んで実食。
和風の味わいでクリームチーズのまろやかさが引き立ち、こちらも悪くはない、が。
「パンよりご飯のほうが合いますねこれは……クリームチーズの味が濃いせいでしょうか」
　クリームチーズを諦め、しっかり水切りをしたヨーグルトを使う案も検討したが、
水気で食感がべちゃべちゃしそうな点と、
手軽なサンドイッチとは言いにくい手間が発生する点がネックだ。
結局この案も却下となった。サンドイッチよりも次の晩酌のお供にしよう。
次に甲斐斗が選んだのはチーズを振りかけた目玉焼き、ハム、レタス、マッシュポテト。
レタスの爽やかさと塩気の強い具材たちの相性は抜群だったが、
かぶりつくのに少々勇気がいる厚さとなった。
油断すれば、中の具材が全部滑り落ちてしまいそうだ。
「変化球、と思ったのですが、大分分厚くなってしまいましたね……足し算しすぎましたか」
　ならば引きましょう、とばかりに次の試作に取り掛かる。
チーズとマヨネーズ、コショウで味付けしたポテトサラダを挟んだサンドイッチは、
シンプルではあるもののバランスが良く、飽きの来ない一品に仕上がった。
しかし、食べている甲斐斗はいまひとつ納得がいかない。

シンプルでバランスが良く、王道の味わいであるということは、つまり。
「オリジナリティがほしいですね。これだと只の美味しいサンドイッチです」
　もしかしたら、多少構成は変わるとしても似たメニューがすでに店にある可能性にも思い当たり、
もう一工夫加えたいと考えた甲斐斗は再度調理台の上を見渡し、
ふと、釜揚げしらすに目を止めた。
「ここの周りは海ですし、これなら……」
　釜揚げしらすに合わせて味付けを和風に変更し、和風ポテトサラダのサンドイッチが完成。
早速一口食べてみると、ふんわり漂う磯の香りが海辺の町にもベストマッチ。
「うん、これをマクレガーさんに提案してみましょう」
　試作から少し味を整えなおしたものを、ランチボックスに詰めて持ち出す準備をする。
残った大量の試作サンドイッチは、後々すべて甲斐斗の胃袋に収まる予定だ。