ハピネスサンドイッチ！｜リアクション

ハピネスサンドイッチ！

　駅前を歩く真境名アリサは、はあ、とひとつ大きく溜息を吐いた。
陽気なアリサにしては珍しく、足取りも肩も、ここのところなんだか重たい気がする。
肩こりや疲れなんかは、その都度ケアしているつもりではあるが、
知らず知らずのうちに力が入ってしまっているのだ。
　勤め先で副店長という責任ある立場を任されて一か月。
昇給した分だけ責任も増え、付随するプレッシャーは
知らず知らずのうちにアリサの心身を疲弊させていた。
それでもブラック企業勤務の頃よりずっといい、と自分を奮い立たせていると、
ふと、路肩に停車したサンドイッチワゴンが目に入った。
（ハピネスサンドイッチ、たまに買って食べるけどおいしいのよね。）
職業柄そう頻繁に食べるわけにもいかないが、今日はなんだかサンドイッチの気分だった。
数歩歩み寄ったところで、アリサはワゴンの違和感に気が付いた。
いつもの快活な様子はどこへやら。
肩を落としたハムおじさんが、暗い顔でチラシを配っているのだ。
その少し丸まった背中に先ほどまでの自分の姿を思わず重ね、
アリサはハムおじさんの手からチラシを受け取った。
「スランプ、ねえ……」
　うまくいかない、ぱっとしない、気分が上がらない。
そういう時は誰にでもあるけれど、誰にでもあるからこそ、気持ちが浮上する手助けをしたい。
そう考えたアリサは、近くのスーパーに立ち寄って、
新しいサンドイッチのレシピを考えてみることにしたのだった。

「さて、と。まずは、サンドイッチの具を作らないとね」
　スーパーで、買い物かごを片手に食材を探していたアリサは、
気づくと無意識のうちにゴーヤを手に取っていた。
故郷、沖縄のことが頭をよぎって、というわけではないが、
心のどこかで、ホッと一息つける味を求めていたのかもしれない。
　思えば、ハピネスサンドイッチのメニューは両極端だ。
主に学生が購入する、肉やフライをふんだんに使った高カロリーのものと
カロリーを気にする客層向けの、野菜のみを使ったヘルシーなもの。
しかし、プロポーションの維持に気を使っているアリサは、
野菜のみのサンドイッチはヘルシーに見えてその後の空腹感が強く、
総合的なカロリーではむしろダイエットに向かないということも熟知している。
ハピネスサンドイッチのいちファンとして、
こってりジューシーなサンドイッチとあっさりヘルシーなサンドイッチの中間のメニューが欲しかった。
なんとなく思いついたのが、ゴーヤチャンプルだ。
食物繊維たっぷりのゴーヤと、ビタミンを含む豚肉、卵の良質なたんぱく質で
質の良い栄養と、確実な満腹感を得ることが、
一日の総カロリー量を減らす、健康的なダイエットの近道でもあるのだ。
「本土にきてからは食べる機会も減っちゃったし、たまにはね」
　自宅のキッチン。久しぶりに作る郷土料理だが、体は作り方をしっかりと覚えていた。
ゴーヤの独特な苦みを抑えるひと手間も忘れず加え、
できあがったゴーヤチャンプルをパンにはさんでゴーヤチャンプルサンドを完成させる。
これならきっと、食べごたえを求める学生にも、ヘルシーさを求める大人にも喜ばれると思うのだ。
アリサは、できあがったサンドイッチを早速ランチボックスに詰め込んで
ハムおじさんの元へと向かった。

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