【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層(7)】城下町の日常(2)

　その頃、サジタリオ城下町のもっとも大きな出入り口に、寝子島から三人の冒険者がやってきていた。
「じゃじゃーん！　ここが前に話した第一階層の城下町なんだよー！」
　後ろを歩く二人を振り向きながら、鈴原天音は大きく両手を広げて満面の笑みとともに言った。
「へぇ、ここが星幽塔かぁ。初めて見たよぉ」
　のんびりとした口調でそう言ったのは、天音の兄である鈴原空。そして、
「なんかすげー賑やかなところだな」
　と、鋭く細めた目であたりを見まわしたのは、鈴原兄妹の共通の友人である滝原レオンであった。
　三人はいわゆる幼馴染で、天音は星幽塔経験者であるものの、空とレオンは今回が塔初体験であった。
（塔に平和が戻って、いつか島と塔が自由に行き来できるようになったら、二人を案内しようってずっと決めてたんだよ！）
　天音はそんな念願が叶ったことで、今にも飛び跳ねて上の階層に飛んでいってしまいそうなほどに上機嫌だ。
「ふふ。天音は、いつのまにか、こんなファンタジー小説の舞台みたいなところで冒険していたんだねぇ」
　空は、そんな天音の姿を微笑ましそうに見つめ、
「確かに、ＴＨＥ・ファンタジーって感じの雰囲気だよな。服装もそれっぽく変わってるし」
　レオンもどこかそわそわとファンタジーな世界のファンタジーな人々の姿を目で追っている。どうやら道行く人のウサギ耳やキツネ尻尾などが気になって仕方がないようだ。
「で、今日は空音がここを案内してくれるんだろ？」
　と、レオンが問えば、
「ふっふー！　そのとーり！」
　と、空音が胸を張る。
「今日は星幽塔初心者のお兄ちゃんとれおにーちゃんを、天音ちゃんが案内しちゃうんだよー！　さあ、レッツゴー！　なんだよ！」
「うん。じゃあ、今日はよろしくねぇ、天音」
「……って、おい、ちょっ、引っ張るなって！」
　と、レオンが叫ぼうとしたそのときだった。

「うふふっ！　ねぇ、おにいさ～ん、突然だけどお水いらない？」
「は……？」

　レオンの目の前にいきなり水着のボインのお姉さんがあらわれた。
「あ……。この人、塔で噂の若返り美人――マリリン・ダイナマイトさんなんだよ！」
　空音がお姉さん――マリリンの格好と胸に気づいて言う。マリリンは街中で、やはりいつものダイマナイトなビキニを着て歩いているのだった。
「へぇ。凄い大きいねぇ～」
　何がとは言わないが、空もぼんやりと感心した表情を浮かべている。
「……わ、若返り美人？　ってことは本当はもっと年上なのか……？」
「うふふ。可愛いボウヤ。世の中には知らない方がいいこともあるのよ？」
　こつんとマリリンに中指で額を小突かれると、レオンは思わず少し赤面してたじろぎ
（……い、いったい本当はいくつなんだ？）
　と、余計に訝しくなる。
　まさにそのとき同じく水着（もちろんビキニである）で水売りをしていた水上桜が後ろから現れて、
「ちょっと。あなた、もう少し歳を考えて客をひっかけなさいよ。それじゃあまるでお孫さんじゃない」
「「「孫っ……！？」」」
　などと言うものだから、事態はさらにややこしなくなる。
「ちょっと桜ちゃ～ん？　いくらセクシーさで私に勝てないからって営業妨害はやめてくれな～い？」
「事実じゃない……！　ていうか、別にセクシーさでも負けてないしっ！　ね、あなた達も――」

　と桜に訊かれるよりも早く、

「ふ、二人とも、つ、次はあっちなんだよ……！」
　空音は、二人を連れてその場から一目散に逃げ出したのであった。