【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層(8)】城下町の日常(3)

　さらに同じ頃。
　トン、テン、カンと甲高い鎚の音が響く鍛冶工房『シュミート』に一人の客人が訪れようとしていた。
「クレイグさんはいるか！」
　ザ・ストレイトこと風雲児轟である。彼の脇には大きな鞄が抱えられていた。
「クレイグさん、いるかーー！」
　大きな鎚の音に負けないぐらい大きな声で、轟は工房内で作業を続けるクレイグ・ドナハとその二人の弟子にもう一度呼びかける。
　最初はなかなか反応がない。
　返ってくるのは赤熱した剣の熱気と、それに打ちつけられる甲高い金属の音のみ。
「おーい！　クレイグさん！」
「……ん？　何か聞こえたような気がするが……ああ、いつぞやのボウズか」
　呼び続けること数回、ようやく来客がやってきたことを認識したクレイグが轟に一瞥だけ寄越し、二人の弟子が師匠にかわってペコリと頭を下げる。
「今日はどうした？　また新しい武器が欲しくなったか？」
「いや、じつは今日は仕事を頼みに来たんじゃないんだ」
　クレイグの問いに、轟は力強い声音でそう答える。
「今日は、クレイグさんに、いや、クレイグさんだけじゃなく二人のお弟子さんにもお礼を言いに来たんだ」
　そう言って、轟は脇に抱えていた荷物をその場に下すとそこから二種類の武具を取り出して見せた。
　おおっ、と二人の弟子が息を飲む。
　轟が取り出したのは、この鍛冶工房で鍛えてもらった『ホープ・ストライクＣ』と『ホープ・グリーブ』。
　どちらも、激しい戦いであちこちに傷がついているが、壊れてはいない。
　この鍛冶工房『シュミート』でクレイグとその弟子に鍛えてもらった轟の自慢の武器であり、今ではともに長き戦いを乗り越えた相棒とさえ思っている。
「あんた達が作ってくれたこいつらのおかげで、俺は最後まで戦い抜くことができた」
　瞑目し、これまでの激しい戦いを振り返りながら轟はともに戦ってきた相棒にそっと指で触れる。
「いい武具を作ってくれて本当にありがとう！」
　それから、轟はクレイグと二人の弟子に深く深く頭を下げた。
「いやー、そんな……」
「俺達は別に……」
　と、褒められ慣れてない、感謝されなれてない二人の弟子が照れたように頭や頬をかく。
　轟は決して言葉でものを伝えるのが上手い人間ではない。むしろどちらかといえ真っ直ぐで、不器用な人間だ。
　しかし、だからこそ、はっきりと届く想いもあるのだ。
「……ふん」
　と小さく鼻をならすクレイグの横顔が、ほんの少し嬉しそうなことからも、それは紛れもない明白な事実なのであった。
　そんな三人を順に見まわして、

「こんな物騒な事はもう起こらないとは思うけど、困ったことがあったらいつでも言ってくれ。絶対に助けに来るからな！」

　轟はくるりと踵を返し、親指をグッと立ててヒーローっぽいポーズを取ると、次なる目的地へ向かってシュミートを後にしたのだった。