【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第二階層(1)】そうだ。温泉に行こう

　その日、オルカ・ヴィヴァルディは、友人の獅子目悠月に、こんな話を持ちかけた。
「ねー、悠月♪　せっかくだからゴンザレスの脅威のない星幽塔で、ぱ～っと寛ぎたいところなんだけど、いい場所知らない？」
「……ふむ。そういえば、第二階層に温泉があると聞いたな」
　悠月は、ふと、かつて訪れた第二階層に温泉があったという話を思い出した。
「Ｔerme（温泉）！　いいね～、最高じゃない。行ってみようよ」
「……いや、あるにはあるが、そこに辿り着くまでの過程が大変かもしれんぞ？」
　悠月は、オルカに温泉に辿り着くためには、いくつかのアクティビティを突破しなければならないことを話した。
「なーんだ。そんなことか。全然問題ないよ。悠月と一緒なら、すこーしの大変さも、スパイスのうちってね」
　パチンとウインクして見せるオルカに、悠月はしばし呆然と目を瞬かせる。
　そして、
「……塔が平和になっても、お前は相変わらずだな。いいだろう。俺も戦いの疲れを癒したいと思っていたところだからな」
「決まりだね」
　かくして、二人は、再び水道橋に挑むことになる。

　　* * *

　やはり悠月の考えていたように、第二階層のアーティファクトギミックは生きていた。
　悠月とオルカは、最初に第二階層にやってきた冒険者達がそうしたように、まず見張り塔からスライダーを経て、温泉を目指すことになる。
「へー。こんな面白そうなところがあったんだねー。あ、見て、悠月、水の球が浮いてるよ～って、わ！　襲ってきた！」
　見張り塔の通路を走っていたオルカは、自らの意思を持ったかのように襲ってくる粘着質の水球に目を剥いた。
「気をつけろ。あれはこの階層のスライムだ。やはりゴンザレスは消えても、もとからいるモンスターは消えないようだな……！」
　淡々とした口調で説明しながら、悠月が獅子心弓の弦を引く。
　放たれた矢は狙いあやまたずにスライムを射抜き、ただの水へと還していく。
　が、そこにさらに新たなスライムが大挙して押し寄せてくる。悠月は速射で、どんどんと数を減らしていくが、弓という武器の性質上、同時に相手にできる数には限りがある。何匹かが大きく悠月の射程範囲を迂回するようにして、その背後に迫ろうとする。
　だが、悠月はあくまで目の前のスライムを射抜くことに集中して、振り返ろうともしない。
　このままでは、がらあきの背中を狙われる――わけではない。
「ふうん。あくまで俺と悠月のバスタイムを邪魔したいわけだね。なら、容赦しないよ？」
　次の瞬間には、その悠月の背中をカバーするように、双剣――ザンナ・ジェメリを左右に振り抜いている。
　音も無く閃いた剣捌きに、二匹のスライムがただの水となって弾け、足下を流れる水に混じって消える。
「……おい。妙な言い方をするな。誤解を招くだろう」
「うーん？　誤解って、いったい誰に？　ここには俺と悠月しかいないよ？」
　仏頂面の悠月とおどけた表情のオルカはまるで猫がじゃれあうように言葉のぶつけあいながら、スライムの群れをものともせずに突き進んでいく。
「オルカ、ここから先がスライダーだ。道を間違うと別の場所に行ってしまうから注意しろ」
　悠月がそう言ってスライダーに突入し、頷いたオルカもすぐにその後を追う。
　そして、その先に待ちうける仕掛けも二人は息の合ったコンビネーションで突破していく。
　程無くして、二人は見事に第二階層の温泉部分にまで辿り着いたのであった。