【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層(4)】ヌエを探して三千里

　さて、時と所が変わって、ここ、ある昼日中のシャウラの森では――。
「リリエル、今度はヌエだってさ！　なんだかよくわからないけど、あたしとリリエルが組めばどんな怪物だってへっちゃらだよね！」
「はい、メリィちゃん。これからも一緒にがんばリリエルです！」
　メリィ・ランページとリリエル・エーテライトの二人が、人々から奪った宝石を溜め込むという、シャウラヌエを討伐するためにシャウラの森の中を歩いていた。
　シャウラヌエは火を吐き、翼を持ち、毒蛇の尻尾を持つと言う強敵だ。
　メリィとリリエルはそんな強敵に恐れずに立ち向かおうとする。二人には人々から宝石を奪うヌエの狼藉がとても許せないことだと思えたからだった。
　そして、そんな強敵に戦いを挑もうとする冒険者はその二人ばかりではない。
「シャウラヌエ、強そう！　腕鳴る！」
　そう言って、赤い瞳を宝石の爛々と輝かせるのは、ヴォーパルバニー族の少女アスワド・クロノワールだ。生まれながらの戦闘民族であるアスワドには、強敵との戦いが、三度の飯よりも楽しい至福の瞬間だったようだ。
「なかなかの強敵みたいね。まず事前にトマオレクッキーを食べて身体能力を向上させておいてから、最初に――」
　手にした特殊効果付きのクッキーを齧りながら、指折り作戦を確認しているのは新田樹。樹の好物はスリルだ。ゆえに彼女は今回もそれを味わうためにこの任務に参加していた。
　戦いそのものが目的という意味で、アスワドと樹は、少し嗜好が似ていた。
　一方、今回の任務に参加した目的が、戦うことでも、困った人々を救うことでもない者達もいる。
「ヌエ、か。強敵には違いないが、まぁ背に腹は代えられないからね」
「いやー、あんた達が一緒に来てくれて助かったよ！　シャウラヌエを相手に、あたし一人じゃどうにもならないからさ！」
　４人を先導するように最前列を歩く、ティオレ・ユリウェイスとフォルカ・ヴィクスンの二人がそうだった。
　二人の目的は、ヌエが溜め込んだというお宝。
　特に、フォルカに至ってはヌエと戦うつもりはなさそうだ、とティオレは睨んでいたが、それはあえて黙っていた。
（それならそれで構わないさ。戦いで貸しを作って、きっちり分け前を要求する。それが最善の手段だろうからね）
　ティオレは、先刻から色々とあって、当面の金を工面する必要があったのである。
　そうして、それぞれの思惑を胸に秘めつつ、冒険者達は森を進んでいく。
　がさり、と草木の揺れる音がしたのは、それからすぐのことだった。
　全員が、ハッと足を止め、音の方に振り向く。
　そこにいたのは、まさしく化け物。
　大型の虎のような体躯の背中から生えた鷲の翼。今にも火を吐き出しそうな大きく開かれた咢（あぎと）。鎌首をもたげてこちらを見据える毒蛇の尻尾。
「へぇ。本当に噂に聞いていた通りの姿ね。ファンタジーの世界に、お宝に、怪物！　いいね、ワクワクする！」
　まるでＲＰＧでレアモンスターに遭遇した程度の気軽さで、樹が言う。
「大きいなー。でも、それだけ。小さくても、ボクの方が強い！」
　アスワドが好敵手を見つけた戦士の表情で、クークゥルを構える。
「あれがヌエかー。よーし、鵺と虎の子、どっちが強いか、いざ、じんじょーに勝負だ！」
「援護します！　皆さん、がんばリリエルです！」
　メリィが虎の爪（ハンドクロー）を伸ばして一歩前で出れば、すぐ後ろからリリエルがエールを送る。
「あんたに恨みはないけどね、こっちも色々と切羽詰まってるんだよ！」
　ヌエの威嚇に負けじと威嚇を返すティオレの表情には、確かに抜き差しならぬ必死さがあった。
　
「みんな来るよ！　さあ、好きにやっちゃって！」

　なお、フォルカは、案の定、真っ先にコマンド「かくれる」を実行し、安全な場所へと退避したようだった。