【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第四階層(2)】医者の本分

　同じ頃。
　鴻上彰尋は、第四階層のとある場所にある、かに座のアステリズム――シドニウム・カトルの家を訪れようとしていた。
「……カトルさん、いるかな？」
　ぽつりと呟き、彰尋は、シドニウムの家の扉を遠慮がちに叩いた。
　意外にも、扉はすぐに開いた。
「君は、あのときの……」
　扉の奥から姿を見せたシドニウムは髪に隠れていない方の目をわずかに見開くと、やはり意外にもフランクに家の中に招き入れてくれた。
「お忙しいところ、突然お伺いしてすみません。あ、これ、お土産です」
　彰尋は、まず突然訪れた非礼を詫びて、持参した手土産を渡す。
「星の滴を砕いたものを混ぜてつくったお菓子です。日頃の仕事の疲れを少しでも癒せれば、と」
「ありがとう。頂こう」
　シドニウムは菓子を受け取り、それをお茶受けに、お茶を淹れてくれる。
　彰尋はお茶を飲みながら、最近星の力に対する認識を改めた――星の力は自分達が持つ『ろっこん』とは別の性質のものではないか、と思ったことをシドニウムに話した。シドニウムは「興味深い見解だな」と否定も肯定もせずに彰尋の話に耳を傾けていた。
　それから、またすぐに往診の予定があるというシドニウムに、彰尋は雑談もそこそこに本題を切り出した。
「今日は謝りに来たんです。十三階層での最終決戦のとき、シドニウムさんにも凄く心配をかけたんじゃないかなって」
　彰尋は、自身に自己犠牲心が強い傾向があること、最近では己のそういった部分にきちんと向きあわなければいけないと思っていることなどをシドニウムに伝えた。
　神妙に話す彰尋に、シドニウムは真面目な顔で一つ頷き、それからわずかに口元を歪ませて苦笑した。
「確かに、心配はしたな。君の姿が、アステリズムだった養母や医者に成り立てだった頃の私に似ていて、不安になったからかな」
「え……？」
　思いがけないシドニウムの言葉に、彰尋は目を瞠る。
「……俺があなたのお養母さんや、昔のあなたに似ている？」
「ああ。特に養母は星の力で癒せない分、人々に薬師として尽くしていた。それはもう働きすぎというぐらいにな」
　シドニウムはそこで少し遠い目をする。亡くなった養母との在りし日の記憶を思い返していたのかもしれない。
「そんな養母の背中を見て育ったせいかな。私も同じようになってしまった時期があり、医者としての師や父に叱られたことがある」
　だから、あまり生き急ぐものではない、とシドニウムは彰尋に言うのだ。

「……気をつけます。だから、カトルさんも、もう少し自分を大事にしてください。――あなたも無茶をしてはいけない人のはずだ」

　控えめに、だが、はっきりとした声で言った彰尋に、シドニウムは驚いたように目を見開いた。
　そして、

「……ああ。肝に銘じておこう。ありがとう」

　ひどく真面目な顔で、静かにそう答えたのだった。