【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第三階層(7)】氷結谷畑のある日の風景(2)

　来島アカリは、順調に水やりを進めていた。
　そうしているうちに、自分の畑に向かう途中の恵御納夏朝がその姿を見せた。
「あ、来島君。こんにちわ」
「おー。恵御納か。お前も畑の様子見に来たの？」
「うん。来島君のサファイアリリーも、もうすぐ咲きそうだね。あ、モグラ妖精さん達、いつもお手伝いありがとね。はい、お礼だよ」
「「「わー！」」」
　夏朝が収穫したモグラダイヤを差し出すと、モグラ妖精達はワラワラとそのダイヤにたかりはじめた。
「こいつら、本当にモグラダイヤ好きだなー」
「こっちが微笑ましくなるぐらいだよね」
　星幽塔ではともに困難をくぐり抜けたこともある間柄であるアカリと夏朝の二人はそれからしばしなごやかな歓談をかわす。
「僕はサファイアリリーと金剛オレンジを収穫しにきたんだ。『ねこよろず』で、新しい商品を作ろうと思って」
「へー。なんか凄そうだなー。俺はサファイアリリーの水やりと、そろそろ収穫の頃合いのはずのシュガーメロンを取りに来たんだ」
「シュガーメロン、美味しそうだよね。サファイアリリーも綺麗に咲くといいね。水やり頑張って」
「おー。恵御納も頑張れよー」
　そうして、目的の作物を収穫し、同階層の『ねこよろず第三階層支店』に向かうという夏朝を見送ると、アカリもまた自分の作業に戻る。
「よーし、次はシュガーメロンだー。おー、いい感じだぞー」
　ずっしりとした重みを感じさせるシュガーメロンをいくつか収穫して台車に乗せ、ついでにサファイアリリーも一輪摘んで、アカリは第三階層に用意した自宅へと移動する。
「ふー。思ったよりも重かったな……。塔を上っていくなかで、結構強くなったと思ってたんだけどなー」
　大きく息を吐き、汗ばんだ手を握ったり解いたりしながらアカリはまだまだ修行不足な自分を実感する。
「もっと強くならないとな。ま、それはそれとして結構働いたし、一つぐらい食べてもいいよな……？」
　そうして、アカリは摘んだサファイアリリーを室内に飾ると、しゃくしゃくと優雅なおやつタイムへとしゃれこむのであった。