【星幽塔】そしてまた『日常』へ｜リアクション

【星幽塔】そしてまた『日常』へ

【第一階層(7)】

　盗賊団『十二支団』のアジトは城下町のとある酒場の地下にある。
　そのアジトの作戦会議城にて。
「――以上が、私が行った調査の内容です」
　スハイル・アルムーリフは、ひどく事務的な口調で、自身が調査してきた内容を、ティクス・ソルを始めとした盗賊団の構成員達に詳細に語って聞かせた。
　スハイルが調査してきた内容は、目的のペンダントの在り処のみならず、その悪徳商人が非合法な行為で善良な人々から巻き上げた様々な金品の在り処とその持ち主の情報、さらには屋敷の詳細な見取り図まで、作戦を円滑に進行するために必要にして充分なだけの情報が含まれていた。
「叩けば埃が出るやつだとは思っていたが、まさかここまで真っ黒とはね」
　ネズミの獣人であるティクスは呆れたように呟く。齢は４８６を数えるが、身長１５１センチと小柄で、頭に生やしたネズミの耳と生まれつきの童顔も手伝って、少年と間違われることも少なくないティクス。だが、彼こそがクセモノ揃いの盗賊団を束ねる正真正銘の十二支団のリーダーなのである。
「まあ、いいさ。それならそれで遠慮なくいっちょ派手にやってやろうじゃないか」
　ティクスがそう言って少年のような笑みを浮かべれば、
「いいね。暴れ甲斐がありそうだ」
　と、コル・ティグリスが口の端を曲げる。コルは身長１８７センチで筋肉質な、見るからに武闘派の虎の獣人だ。
「ん、難しいことはよくわかんねぇけど、とりあえず団長に指示された通りに殴る！」
　意気揚々と自身の拳と手のひらを打ちあわせたのは猪の獣人のイダス・アグリオスだ。その姿に違わない猪突猛進型の獣人で、細かいことを考えるのは苦手なイダス。しかし、そのまさしく獣じみた危機察知能力と瞬発力は十二支団でも屈指のものを誇り、荒事には欠かせない戦闘要員の一人である。
「私は現場に侵入して皆さんの先導とお宝の運び出しの人足の指示を担当しましょう。向こうもせっかく集めたお宝をむざむざ賊に渡したくないでしょうから、それなりの手練れを率いてこちらの制圧にくるはずです。陽動は任せましたよ、コル、ティグリス」
　自身の手でまとめた屋敷の見取り図を細い指でなぞりながら、スハイルがコルとイダスに視線を流す。
「ああ、まかせとけ」
「おう！　団長の指示通りに殴って、殴って、殴りまくる！」
　勇猛な虎と猪が頼もしげに頷くのを見て、リーダーのネズミは穏やかな微笑を浮かべる。
「頼りにしてるぜ。荒事に慣れていない使用人はあらかじめ俺がちょちょいと仕込みをいれて眠らせておく。お前達は遠慮なくぶちかましてやれ」
「全部終わったら、俺、宴会やりたい！」
　と、そこでイダスがおもむろに挙手して提案する。
「おやおや。随分と気が早いですね」
　スハイルが苦笑したように言えば、
「スハイルは踊ってくれよ！　で、コル兄さんは料理担当！　俺は――食って食って食いまくる！」
　と、イダスはまさしく猪のようにどんどんと話を進めていく。
「って、おい。お前は食ってるだけじゃねぇか。まあ、いいか。料理は嫌いじゃないしな」
　コルもまた呆れたふうを装いつつ、すでにその頭の中には肉を中心とした宴を盛り上げる料理のメニューが浮かび始めている。
　そんな仲間達を順番に見まわして、
「いいね、その意気だ。始めから失敗するつもりで盗みを働く盗賊なんていない。派手にぶちかまして、悪辣な大商人様をこらしめてやるとしよう」
　ティクスは話をまとめるように、静かな口調で言った。
　それだけで、しんと空気は一変し、場の空気がまとまる。
　この静かなるリーダーシップこそが、ティクスが十二支団のリーダーたるゆえんであるのかもしれない。
　そうして、話はまとまった。
　かくして、盗賊達は、夜の闇にまぎれて実際の行動に移ることになる。