HAPPY BIRTHDAY TO WORLD｜リアクション

HAPPY BIRTHDAY TO WORLD

■おかしなわくせい
　惑星ユウは不思議な星でした。
　七音侑という神様にあやかって名付けられたこの星には、ある特別な植物が繁殖したのです。
　それは宇宙から来訪し、まき散らされたある種から進化しました。
　由来不明のそれを仮にユウキビと名付けるとして、このユウキビは生物たちが大地に満ちるよりも早く、大陸を支配していたといいます。
　どんな風土でも例外なく繁殖するこのユウキビがその真価を発揮するのは、生命が大陸に踏み入ってから数億年してからのことでした。

「楽しい星にしたいんだ。とにかく楽しくて、楽しくて、夢みたいな星にしたいんだ！　だから……こんな仕掛けをしてみたよ！」
　侑は星を見下ろす宇宙空間で、ぱらぱらと白い粉をすった。
　手にはクッキーの入った紙袋。
　皆さんご存じの通り、クッキーには沢山のお砂糖が使われております。
　地球の歴史においては古く七世紀ペルシアまで遡り、お砂糖というものが一般化するにあたってパンに砂糖を混ぜて焼くクッキーの元祖が作られたそうだ。
　今で言うバタークッキーめいたものが生まれるにはそこから更に千年ほどかかるが、お砂糖を使ったお菓子ができるには西暦計算で七百年もあれば充分だということがわかるだろうか。
　さて、なぜこんな話をしたのかというと……。

　惑星ユウは地球と似た環境をもち、同じような過程を経て人類に近い生命が誕生し、知恵をつけ集落を持ち文明を築くのですが……この星で最初に知性を持った生命は人類なのかといえば、そうではありませんでした。
　人類がある段階において、ユウキビを用いたお菓子を作り上げた時のことです。
　お菓子は不思議なことに、生物そのもののように動き、振る舞いました。
　ユウキビに含まれる糖分はそれ単体で高度な知的生命体だったのです。
　他の物質と混ざり合い、砂糖どうしで知的ネットワークを組み上げることで知性を獲得し、その知性をもって新たなお菓子を作り、そこからさらなるお菓子を作り……やがてはお菓子の大軍団が生まれました。
　ユウキビから製造された生命はスイートアニマルと呼ばれ、暫くの間は古代文明の労働力や家畜として重宝されました。
　しかし悲しいかな、文明というものを維持するには、人類は未熟でした。一千年の時をもって文明は滅び、最後にはスイートアニマルだけが残ったのです。

　残されたスイートアニマルは種の保存につとめました。
　クッキーの熊、ゼリーのカバ、プリンのネコや大福ウサギ。多様性によるトライでユウキビ由来のスイートアニマルたちはこの星での生存を勝ち取ったのです。
　彼らの栄養源は糖分だけでした。
　ユウキビを栽培し、そこから流れ出る糖分を摂取するだけで生きてゆくことができました。
　やがて彼らは品種改良を覚え、巨木から宝石のようなゼリーの果実がなるしくみを開発しました。
　文明は発達し、学問は進み、硬く焼いたクッキーを歯車にして、少ない糖分で沢山稼働するお菓子の機械を作るようになりました。
　彼らは次々に産まれ、増え、地に満ちました。
　だから、来るべき時はすぐにやってきたのです。

　スイートアニマルにとって、この星は狭すぎました。
　わずか二千年で惑星を埋め尽くした彼らは、ついに住処に困るようになったのです。
　死なず、争わず、それでも増え続ける彼らに突きつけられたのは、当たり前の人口問題でした。
　彼らは蓄積した技術を結集させ、生き残りの道を模索しました。
　硬く焼いたクッキーを集め、生きた宇宙ロケットを開発しました。
　彼らは母なる星を離れ、新たな大地を探す旅に出たのです。