HAPPY BIRTHDAY TO WORLD｜リアクション

HAPPY BIRTHDAY TO WORLD

■まなぷらねっと
　惑星オサムは、惑星のていを成していませんでした。
　八神修という神様の見守る星は、地球をはじめとする太陽系惑星のようにひとつの形をもたず、小さな岩石とガスの集合体でしかありませんでした。
　これをあえて、惑星オサムと呼びました。
　星には当然のことながら、生命らしい生命は宿りませんでした。
　そのかわり、光の粒子が複雑にいきかい、無数の可能性を模索しては消える超次元的なネットワークだけがありました。
　フォトンによる計算ネットワーク。これらを総称してマナと呼びました。
　誰がそう呼んだのかといえば、フォトンネットワーク自体が、自分たちをそう呼んだのです。
　そう。
　彼らは思考する粒子集合体なのです。

　惑星オサムがその形を維持できなくなり、ブラックホールへと変わった頃、マナもまた新たな形を得るようになりました。
　ブラックホールの中心。いわゆる特異点とよばれる場所にて、マナが宇宙におけるあらゆる可能性を自分の内側だけでシミュレートするようになったのです。
　ブラックホールの中に入ったことのある方はおわかりかもしれませんが、そうでない方が大半だと思いますので、あえてたとえ話をすることにしましょう。
　ここに一つのデッサン人形があるとします。
　デッサン人形はポーズをつけて何かを描く材料としますが、何になったつもりかはポーズをつけさせている人次第です。観測者によって、デッサン人形は大統領にも映画スターにもなるのです。
　では、ここにデッサン人形を見つめる十人の人々がいたとします。彼らは人形を描く際に誰を想像しているでしょう。観測者が複数いることで、デッサン人形には十種類の結果が同時に存在していることになりますね。
　今マナは、この観測者が無限にいる状態にあるのです。
　それゆえ、マナはあらゆる存在になれました。

　マナは時間と距離の概念をなくしました。
　宇宙のどこにでもその存在を移行できます。
　しかしそれは同時に、宇宙のどこにも存在しないということでもありました。
　あらゆる惑星のあらゆる物体に宿り、マナは存在しています。
「思っていたのとはちょっと違ったけど……なるほど、これはファンタジーだ」
　ブラックホール特異点の中で、修はうっとりと目を閉じました。
　マナがあらゆる時空のあらゆる物体にやどって己をシミュレートするさまを観測しているのです。
「ああ、いいさ。どこにでも行き、なんにでもなればいい」

　あなたの目の前にも、マナはきっとあるでしょう。

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