HAPPY BIRTHDAY TO WORLD｜リアクション

HAPPY BIRTHDAY TO WORLD

■はなさくわくせい
　椿美咲紀という神様にあやかって、この惑星はミサキと名付けられました。
　豊かな土と豊かな水、適度な大気と重力のバランスによってできあがったこの星は、植物が育つのにとても快適な環境でした。
　ほどなくして大陸を植物が埋め尽くし、光と土と循環する水によってどこまでも広がっていきました。
　くわえて、植物の外敵となる生物がほとんどおりませんでしたし、海中の生物が発達して上陸してくることもありませんでした。
　しかしそれは幸運なことばかりではありませんでした。
　地球という星では花の蜜をエサにして虫が花粉を運び、果実をエサにして種を運ばせます。
　しかし外敵のいないこの星では、植物が自力で繁殖する手段が求められたのです。
　この星の植物は繁殖を満足に行なうこと無く滅んでしまうのでしょうか。
　いいえ。この出来事もまた、神様の思し召しなのです。

「植物の星があってもいいと思うのです。それも、みんなで一つのことを考えるような、群れがひとつの個体になるような、そんな生態系があったら素敵なのですよ」
　一輪の花を胸に抱き、宇宙空間をくるくるとまわる美咲紀。
　彼女は花を突き出すと、青々とした星にほほえみかけた。
「みんないっしょなら、きっと大丈夫なのです」

　さて、この星で初めて知性を獲得したのはどんな生命だったでしょうか。
　虫。魚。鳥。それとも手足を使うサルでしょうか。否、どの生物もまともな進化を遂げる前に絶滅し、この星には残っていません。
　そして知性を獲得しなければならないほどに進化を迫られていた生命もまた、ひとつしかありませんでした。
　大陸に色とりどりの花が開いています。
　地球では虫や動物を誘うためにひらかれる花はしかし、惑星ミサキでは異なる理由で開いていました。
　花々はそれぞれに電波を放ち、暗号化した内容を別の花々へと伝達していました。
　伝達された内容はごくわずかな計算を加えてまた別の花へ移り、それもまた僅かな計算を加えて別の花へと移ります。
　この現象を、地球にある無数の生命が内包しているのをご存じでしょうか。
　そう、脳信号です。
　この星の植物たちは花をアンテナとした情報連結ネットワークを獲得し、電波によって星じゅうの植物どうしがつながっていました。
　彼らは星の動きを敏感に感じ取り、それを星の裏側まで伝え、時として気流すら変化させながら自らに都合の良い環境を維持していきました。
　花々は巨大な一つの頭脳であり、星を覆う植物は巨大な肉体そのものでした。
　花の生き死にも、地球生物でいう細胞の生き死にと同じです。
　何億何兆、いやそれ以上の花々が細胞となり、それぞれの役割を継承させながら己の種を維持したのです。
　こうして植物たちは種を永遠に存続させることに成功した……と言えればよかったのですが、惑星ミサキはそこまで寛容ではありませんでした。
　花々の栄養は生と死のサイクルによって永続するかに思われましたが、たったひとつの種がごく僅かな違いだけで土にいつくのは限界があったのです。
　一部の植物についた病気ががん細胞のごとく広がり。大地の植物を盛大に枯れさせるという現象が起こり始めました。
　原因は明らかです。
　ひとつの種を繁栄させすぎたせいで、土がやせ衰えてしまったのです。
　植物たちは焦りをおぼえました。
　星を覆うほどの巨大な頭脳は自らが生き残るすべを考え、考え、考え続け、そして一つの可能性を導き出しました。
　宇宙に自らの種を送り、ネットワークを広げることです。
　こうして、植物たちによる宇宙計画がスタートしたのです。