HAPPY BIRTHDAY TO WORLD｜リアクション

HAPPY BIRTHDAY TO WORLD

■とけいのほし
　惑星セリは生物が繁栄するには過酷な環境にありました。
　佐藤瀬莉という神様にあやかって名付けられたこの星にあるのは、沢山の鉱石と強い太陽光。そして僅かな水でした。
　原始の生命は水の中に宿り、そしてすぐに絶滅してしまったのです。
　この星に生命が息づくことはもうないのでしょうか。
　いいえ。
　神様が望んだ以上は、きっと意味があるのです。

　時計を一億年ほど進めてみましょう。
　するとどうでしょうか。
　星は緑に覆われているではありませんか。
　大地には無数の葉と花が生い茂り、小さな虫や大小の動物が闊歩しています。
　しかしよく見てみましょう。虫たちを構成する物質も、葉っぱも花も、すべてこの星の鉱物だということがわかるはずです。
　機械として自らをメンテナンスし続け、その素材を他の機械生物から奪う。
　それらを繰り返して繁栄する有機の機械生命が、この星には生まれたのです。
　薄い大気は金属の身体を劣化させづらく、体内で鉱物を圧縮して自らの素材とし、死して他の機械の素材となるサイクルはまさに生命のサイクルでした。
　そんな中で最も広く豊かに進化したのは、自らを巧みに改良する知能を持った生物でした。

「機械と生命の融合……なんだか、映画の世界みたい」
　惑星セリを包む薄い大気の外側で、瀬莉は自らの見守った星を眺めている。
　彼女が望んだのは、機械が生命として息づく星でした。
　そのために、この星の環境がデザインされたといっても過言では無い。
　有機生命の絶滅した岩しかないこの星に、鉱物を資源として発達する生命を隕石経由で入植させたのだ。
　一説に地球という星も原始の生命は隕石経由で入植したとも言われているように、この惑星セリもまた、外からの生命が広く繁栄していったのだ。
　瀬莉は懐中時計をぎゅっと握りしめ、彼らの行く末を見守るのだ。
　機械生命は特定の形を持たない。
　彼らの知性は自らを改造させ、より効率的に、より効果的に活動できる形態へと変化を繰り返した。
　最終的に、重力をもち高低差の激しい惑星を広く移動できる形態……つまり二足歩行形態を主流とし、各地域の環境に適応した機械生命が繁栄するようになった。
　無論、単独の計算よりも集合した計算のほうが効率的である事実に素早く行き着き、彼らはコミュニティを築くようになるだろう。

　機械の生命たちが戦争を覚えるのは、コミュニティを築いたすぐあとでした。
　自らにとって有利な計算を行なわせるには、他のコミュニティを支配下に置くのがよいと気づいたからです。
　数を集めることが得意なコミュニティが大帝国を築き、周辺諸国を次々に呑む込みます。
　それに対し隷属を拒んだ周辺諸国が連合国となって対抗。彼らは自らを兵器として改造しはじめました。
　戦争は長く長く続きました。
　星々の形が変わるほど、それは長く続いたのです。
　しかしそれも永遠には続きませんでした。
　あるとき、惑星がたった二つに統合され、その全てがぶつかりあわんとした時、お互いが気づいたのです。
　『このままでは割に合わない』と。

　計算の得意な生命でしたから、戦争の終結は素早く行なわれました。
　地球人類に存在する感情や、遺恨といったものの一切を排除した彼らにとって、争いをやめることはとても容易だったのです。
　そして、彼らは狭くなった土地の問題やいくつもの問題の解決を『惑星の外』に見つけはじめました。
　宇宙開拓の、はじまりでした。

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