チラシを配るだけの簡単なお仕事です（未経験者歓迎）｜リアクション

チラシを配るだけの簡単なお仕事です（未経験者歓迎）

■順調純情純真に
　一通り、公園にいる人々へチラシを配り終えたチーム動物病院は、道を歩きながらチラシを配っていた。
　愛らしい着ぐるみたちと、医者とナースご一行は人の目を引くには十分で。
「あ、着ぐるみと写真撮影ですか？どうぞどうぞ」
　家族連れから撮影を頼まれれば、愛想よく応える夢呼。
　ニワトリ時子とにゃんこ夏朝を誘導し、求められるままにカメラのシャッターを切る。
　体力があるとは言い難い夢呼であるが、女子２人が着ぐるみの中に入ってサービスをしていることを思うと疲れた顔なんて見せられない。
「すみませーん、お兄さんの撮影をしたいんですがー」
「俺ですか！？いや、俺の撮影はご遠慮を……って、鳴神ィ！？」
　訪れた客の声に夢呼が振り返れば、そこにいたのは元・クラスメートで悪友でもある鳴神師呉の姿……！
「ちょっと夢呼ちゃん、そんな恰好して何してんの？」
　明らかに笑いを堪えているといった表情の師呉の姿に夢呼は眉をひそめる。
「……おまえにだけは見られたくなかった……！そして名前で呼ぶな、ちゃんを付けるな！」
「かしこまりました、夢呼ドクター！」
「や　め　ろ」
（同じクラスの師呉さん、今日も夢呼さんと仲良さそうですね）
　そんな男２人のやりとりをほのぼのと見つめるニワトリ時子さんだった。

　用事のある師呉が退散した後も、着ぐるみに群がる人々。夢呼やリリエルが上手く制止し、またササッとチラシを渡していく。
「ひゃああ、かわいいぃ…！」
　猫好きたちがうっとりするのは夏朝にゃんこの愛くるしさ。
　前足で顔を洗う仕草をすれば
「きゃあぁ、こっちに目線お願いしますー！」
「にゃんこちゃん、右のお姉さんがカメラ構えてますよー」
　リリエルに誘導され、カメラ目線を決めっ！
　嬉しそうにカメラを向ける人達を見れば、夏朝は嬉しさからつい
「にゃぁん」
　喜びの声が漏れてしまう。
「きゃぁあ、猫ちゃんが鳴いてくれたぁあ！」
（しまった……！）　
　そうは思うも、別に写真館の女店主には喋るなとは言われてなかった。そして喜んでくれるお客さんを見れば。
「にゃー、にゃぁん♪」
「きゃーーー、可愛いぃぃいい！！」
　夏朝にゃんこに男女問わず、更に人が群がるのだった。

　そんなにゃんこの様子を見ていた子供が、そっとニワトリ時子の元へと駆け寄る。
　時子は少年に気づくと、優しく己の羽で彼の頭を撫でてあげた。
　くすぐったそうな、でもとても心地よさそうな眼差しを向ける子供の表情。
「ねーねー、にわとりさんは鳴かないの？」
　純真な眼差しは期待の色がたっぷりで。
（ど、どうしましょう……）
　時子は脳内で愛雄鶏の雷鶏さんの鳴き声を思い返す。
　そして大きく深呼吸を着ぐるみ内でした後。
「クックアドゥールドゥーー！」
　完璧な表記が出来ないのが残念であるが、とてもとてもリアルな鳴き声が着ぐるみから響いた。
　思わず回りの動きがピタリと止まり、ニワトリ時子へと注目が集まる。
「す……すっごーーーい！」
　リクエストをした少年の輝く尊敬の眼差しに、時子は安堵の息をつくのだった。
　そしてこれから何度も鳴き声をお願いされるのを、この時の時子はまだ気付かなかった。

「写真館リコレクションでーす。よろしくお願いいたします！」
　皆がチラシを配ったり、子供と戯れている中でリリエルも精一杯声を上げながらチラシを配る。
　この一行の中では紅一点に見えるリリエルゆえ、その小さな手からチラシを貰っていくのは男性が多い。
「あ、あの。お願いが……」
　熱っぽい眼差しを送る男性の姿。純真少女リリエルちゃんは「お願い」に弱く、力になってあげたくなるわけで。
「どうしましたか？」
　ナース姿の少女に上目遣いで心配された男性は、意を決し欲望を口にする。
「あの、『お注射しちゃうぞ☆』って、言ってみてもらえませんか……！？」
　このお兄さん、末期症状である。でも気持ちはわかる。
（そういえば、胸ポケットに何か入ってました！）
　見れば、そこにはおもちゃ注射器が。
「えっと……『おちゅーしゃしちゃうぞ☆』」
　注射器を持ったリリエルにウィンク＆ポージングされる末期症状男性は、天に召した。精神的な意味で。
（あんなに喜んでもらえましたけど……どういう意味なんでしょう？）
　小首を愛らしく傾けるリリエルナースであったとさ。