チラシを配るだけの簡単なお仕事です（未経験者歓迎）｜リアクション

チラシを配るだけの簡単なお仕事です（未経験者歓迎）

■断じて動物病院の宣伝ではない
　写真館を離れ、２人と２頭が向かったのは近くにあった公園であった。
　４人の服装はと言えば。
　愛らしくデフォルメされ、肉ぜんもぷるっぷるなニワトリ着ぐるみ姿の御巫時子！
（ちなみに肉ぜんとはニワトリのアゴのプルプルしたヒダだよ！肉垂とも言うよ！）
　そして白い足先が靴下のように見えるキジ白猫の着ぐるみ姿の恵御納夏朝！
　更に、清純さを引き立たせる白のナース服姿のリリエル・エーテライト！
　最後は白衣×眼鏡でエリート風お医者様姿の夢呼・ステイシー！
　……断じて、動物病院の宣伝ではない。
　ファンシーな姿や馴染みのある姿に身を纏った４人は相談の末、まずは子供や家族連れをメインにチラシを配ろうと決めたのだった。

　公園に来ると、子供の目が一斉にきぐるみーずに釘付けとなる。
「わぁぁ、可愛い猫さんだぁぁ！！」
　幼稚園児や小学校低学年くらいだろうか、夏朝の着る猫着ぐるみに群がってくる。
（やっぱり寝子島は猫好きさん多いね）
　着ぐるみの中の夏朝は無表情ながらも、暖かな気持ちで子供達にチラシを手渡す。
「わー、猫さんふわふわぁ」
　抱き付いてくる子供達のキラキラとした表情は着ぐるみ越しでも感じられ。
（僕も、もしこんな着ぐるみ猫さんいたら抱き付いちゃうだろうな）
　そう思う夏朝だった。

「夏朝さん、大人気ですね！」
　リリエルが笑顔を浮かべ、夏朝にゃんこの様子を見守る。
「あぁ、それに御巫も相当なものだ」
　夢呼の視線の先にはニワトリ着ぐるみの時子の姿。
（……着ぐるみなんて初めてですが……）
　時子は飼っているオスのニワトリ「雷鶏」さんの動作を頭の中で思い出し、その挙動を再現する。
　首を前に出し、こっこっこ、と小刻みに動かすニワトリ時子。
（……楽しいですね）
　思わず着ぐるみの中の時子の表情が綻ぶ。
　暑さ対策のためにゆっくりとした動きを心掛ける時子だったが、その穏やかな動きのお陰か子供達も怖がることなく、時子ニワトリに近づいて行く。
「ニワトリになりきっている……！」
　思わず夢呼が眼鏡をクイと上げる。
　時子の後ろをぴょこぴょこと着いて歩く子供たちは、さながらヒヨコのようにも見え……！
「わぁぁ、時子さんも可愛いですね！これは私もがんばリリエル！ですっ！」
　両手を握り、胸の前でグッと気合を入れるリリエル。そのナース服の胸には『りりえる（はーと）』と書かれた名札が光っている。
「あぁ、俺達も行こう」
　子供達はきぐるみーずに任せ、夢呼とリリエルはターゲットを保護者や大人に定めるのだった。

　白衣姿の夢呼やナース姿のリリエルに呼応する人種――やはりそれはご老人だったりするわけで。
「おやおや、新しい病院ができるんかいねぇ」
「こんな若いのにお医者様だなんて、たいしたもんだねぇぇ」
　拝みだすお婆ちゃんを慌てて止める夢呼。
「すみません、違うんです。僕らは写真館の宣伝をしてまして……」
　申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、夢呼は思う。
（やっぱり写真館の宣伝でコスプレは違う）
　己も実家である和洋菓子処『seeds of happiness』の手伝いでチラシを配ることもあるからわかる。
　和洋菓子店なのに寿司職人の姿でチラシを配るようなものだ。
　共通項は食べ物を売っている、ぐらいしかない。
　そんな想いを頭の隅に追いやりつつ。
「貸衣装で、こうしてコスプレできることもアピールしてるんです」
「こす……ぷれ……？」
「私のように、普段着ることのない衣装を着て、楽しくなったり、記念に撮影をするお店なんですよー！」
　ほしびとのリリエルにとっては、ナース服どころか寝子島の服装はどれもコスプレのようなものではあるが。
　リリエルがまっすぐな笑顔を向ければ、愛らしい孫や孫娘に甘えられているようで。老人達も自然に笑顔となる。
「勿論、こういう仮装だけではなく……いやむしろ普通の写真館をしていますので、ご家族で記念写真を撮影し、思い出を残すこともできますよ」
　老婆に夢呼が伝えれば
「家族でこすぷれするのも冥土の土産になるかねぇ、はっはっは」
　夢呼とリリエルの脳内にメイド服姿のおばあちゃんがよぎったのはここだけの話。