チラシを配るだけの簡単なお仕事です（未経験者歓迎）｜リアクション

チラシを配るだけの簡単なお仕事です（未経験者歓迎）

■理子に選ばれし勇者たち
　写真館、兼貸衣装屋 Recollectionの女店主、小田切理子はにやけた顔を戻せずにいた。
　正直、誰も来ないと思っていた。
　それならそれで仕方がないや、とも。
　しかし理子の努力が実を結んだのだ。
　あぁ、なんて優しき寝子島のグッドルッキングボーイ＆ガール！

「今日はよろしくお願い致します……」
　現れた少女、御巫時子がしずしずと頭を下げる。
「むしろ！こちらこそよろしく！」
　満面の笑みを浮かべる理子につられ、時子も笑みを返す。
　店内を見回せば、まだ開店前だからかいたるところに置かれている衣装。
「沢山の衣装があるのは撮影用で使用するのでしょうか？それとも理子さんの持ち物でしょうか？」
「あたし、昔はテレビとか舞台とかの衣装係をやっていたことがあってね。そこで貰ったものだとか、新たに作ったものとか色々あるのよー」
　そうなんですか、と時子が相槌を打つ。
「もう二度と使わないようなものばっかりなんだけど、せっかくだから置いておこうかと思って」
　確かに、傍らに置かれているタコ型の着ぐるみの姿を見れば
（これを使う人はいるのでしょうか……）
　と思わざるを得ない。
　そんな不安を感じている時子に、理子は一着の衣装を提示した。
「あたしのインスピレイションが『時子ちゃんにはコレ！』と叫んでいるの……！」
「これ、ですか……」
　驚きの表情を見せる時子に、理子は大きく頷いた。
（……タコじゃなくてよかった）
　時子はその衣装を抱えると、更衣室へと入って行く。
「あ、後ろのチャックはあたし閉めるから呼んでねー！！」
　時子の後ろ姿に声をかける理子だった。

「未経験でも大丈夫なら、私も手伝います！」
　愛らしい表情を見せながら、ググッと拳を握るのはリリエル・エーテライト。
「がんばリリエルですっ！」
　と、気合をいれる姿に理子は目尻をこれ以上ない程に下げまくる。萌えるよねそりゃ！
　困っている人は放っておけないリリエル。理子の願いを叶えてあげたい、と思う心優しきほしびとさんだ。
「お手伝いホント助かるわ、あっりがとー！リリエルちゃんにはこれなんか似合うんじゃないかしらっ！」
　手渡されたのは白基調のお馴染みの衣装。だが愛らしい雰囲気なのは恐らくガチの衣装ではないからだろう。
「変わったデザインですね！でも、可愛らしいです！」
　ウッキウキで衣装、そして小物を理子の手から受け取るリリエル。
「この服装は、困ってる人を助け、そして癒す服装なの。リリエルちゃんにピッタリだと思うわ！」
「困ってる人を助ける洋服なんですね……！はい！頑張りますっ！」
　寝子島では羽の見えないリリエル。だが今、此処に天使が誕生するのだった。

　恵御納夏朝が声をかけられた際は、不安しかなかった。
　写真館の女主人がチラシに描かれたイラストの出来が『この人は本当に芸術センスを持ち合わせているのだろうか』と頭を抱えるレベルであり。
（でも、こんな好条件なバイト、逃す手はない！全力で頑張る……！）
　結局バイトにやってきた夏朝用の衣装を理子が見繕っているのを眺めながら気合を入れる夏朝。
　だが、その表情はいつも通り型を崩さぬ無表情である。
「よっし！夏朝ちゃんにはやっぱコレかな！」
　渡された衣装に、夏朝の瞳がキラリと輝いた。
（わ……！）
　受け取るや否や、夏朝はその衣装の柔らかみや感触を掌で感じ。僅かながらに喜びの表情を見せる。
（ずっと撫でていたい、けど……！）
　無表情にふわふわをもふもふする夏朝。
（チラシ配りのためにも着替えないと）
　丁重にその衣装を抱え、更衣室へと向かう夏朝だった。

「やっだ、二人共背格好が近いし、これ良くなーーーい！双子コーデ！」
　現れた紗雪幽、そして八神修の姿に理子の瞳はキラッキラに輝きを見せる。
　雰囲気は違えど、身長等にあまり差がないスラリとしたイケメン達の姿。
　理子は即座に衣装を選び、二人へと手渡す。
「へー、俺が着るのはこれっすか？」
　幽の切れ長の瞳が楽しそうに細まれば、修も受け取った衣装をしっかりと受け取り。
（外見からとはいえ、俺を見込んでくれたという期待には応えないとな）
　そんな想いを胸に。
　二人が更衣室に消えていくのを、理子はニマニマと見送るのだった。

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