推理ゲーム『ねこじま人狼』4th｜リアクション

推理ゲーム『ねこじま人狼』4th

　星幽塔、第一階層、『星の酒場 “Barアストラル”』。
　異世界の酒場は、異世界の言葉と喧噪に溢れていた。
　奥の席、樽のような木製テーブルに陣取った戸影エムアを含む八名は、飲み物や軽いつまみに手を伸ばしながら、互いの顔色を窺っている。
　ゲームマスターであるエムアは、口唇の端と端を爪で押さえて、にいっと笑みを浮かべた。

「それではみなさんの主張をおさらいしておきましょうか」

　　サキリ・デイジーカッター：　　　 【占い師】、恋人ではない（屋敷野梢を占い「白」）
　　志波武道：　　　　　　　　　　　【らっかみ】
　　藤堂静：　　　　　　　　　　　　【霊媒師】
　　トワ・E・ライトフェロゥ：　　　 【パン屋】
　　ヒューマ・ノ・スキッド：　　　　 【占い師】、恋人ではない（サキリを占い「黒」）
　　水守流：　　　　　　　　　　　　【騎士】、恋人ではない
　　屋敷野梢：　　　　　　　　　　　村人陣営で、恋人でもない→【パン屋】

「面白いね……占い師が二人、パン屋が二人、か」
　サキリは静かに紅茶のカップを傾ける。
「恋人ってもうお互いに分かってるデスカー？」
　トワの質問に「はい。すでにお互いにわかっています」とエムアは答える。
　一方、このようなゲームははじめて、というほしびとのヒューマは、
「これは誰かが嘘を吐いていて、その人を見つければいいということだよね？」
　などとこまめにルールなどを確認している。
　薬師の髪は緑がかった海の色。肌は、透き通るぐらい白く潤いがあって、水分補給が欠かせないようだ。どうやら彼は、烏賊に近い要素が混じった種族らしい。

「みんな疑うしかない気もするけどそこから考えるのがこのゲームの醍醐味ってやつなんだろうね。面白そうだと思ったけど調合以上に頭を使うね……」
　研究で寝食忘れるほどの天然なヒューマは、無意識に試験管をつまんで振るような仕草をする。
「ふふっ。まさにそうなんです」
　エムアがほほ笑むと、ヒューマはライムグリーン色の瞳をゆるり、彼女の方へと向けた。
「調合ならかっきり割合とか出せるが対人関係は数値にできない部分があるので難しいなぁ。薬の調合と違って形に出来ない物が入るし情報が少ないから更に難しいね……でも、できるなら勝ちたいよね」
「ええ、もちろん、勝ちを狙ってくださいね」
　一方、ばりばりと頭を掻くのは、流だ。
「人狼の目星はだいぶついてきたが縄がかっつかつなんだよなぁ……」
　そうなんだよな、と武道も頷く。
「今回、人狼と恋人を全滅させるなら……吊りで人狼２人、人狼からの噛みで恋人を狙い打ってもらわないと村陣営の勝利はないよな。同票吊りや、人狼に恋人がいればも少し余裕できるけど……」
「ですよねー」と梢も同意する。

「初心者の俺にも理解できるように話を進めてくれよ」
　シーサイドタウンのバー『Holländer』のマスターである静は、ヒューマの髪の色に似た海色の異世界の酒を、興味深そうにグラスの中でくゆらせていた。考え事をするときは煙草を吸うことが多いのだが、いまはグラスに口をつけるだけ。子どもがいるところでは吸わない主義だ。
　彼より二回りは年下で、しかし人狼歴は先輩のトワが、静に状況を解説する。
「This gameでーはー、人狼を吊るチャンスが２回しかなくて、人狼を２人とも吊らないと島民の勝利にならないーデスカラ、島民はmissは許されない、デス。人狼を二人とも吊ったとしても、恋人が生き残ってたら恋人の勝ちになっちゃうマスかーらー、もしも恋人が島民二人だとすると、票数を同じにして人狼と恋人を同時に吊るか、人狼が恋人をbiteしないと、島民陣営は勝てない状況ってことデスー」
「なるほど。で、このあとどうするんだ？」
「まだよく勝手がわからないんだけど、」ヒューマが小さく手を挙げた。
「僕から話してもいいかい？」

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