突撃！あなたのお弁当タイム｜リアクション

突撃！あなたのお弁当タイム

　昼休みのこと。廊下に五十嵐尚輝先生の姿を見つけて、御巫時子は表情を華やがせた。
「尚輝先生、お昼にしませんか……？」
　２人分のお弁当を掲げてみせれば、「ああ」と五十嵐先生は得心したような声を出す。
「そうか、今、お昼でしたね。危うく昼抜きになるところでした」
　実験のことを考えていたので……と、幾らか面映ゆげに頭を掻く五十嵐先生。
　先生らしいうっかりだと優しい苦笑を漏らす時子へと、
「ありがとうございます、御巫さん。ええと……場所は、実験室でもいいでしょうか？」
　と、五十嵐先生は感謝の言葉と問いを零す。
　頷いて、時子は五十嵐先生の隣に並び、じきに２人は実験室でお弁当を広げた。
　蓋を開けた五十嵐先生の口から、感嘆の息が漏れる。
「サザエご飯、ですか。それに、こっちの煮物は蕨ですね」
　お弁当には、旬の食材を食べてもらいたいという時子の思いが詰まっていた。
　ふっくらとしたサザエご飯。頂き物の蕨は、煮物にしてお弁当へ。
　アスパラの肉巻きに、メバルの煮つけ。それから、いつも作っている出汁巻き玉子。
　彩りにと入れたカニさんウィンナーも、季節の味が並ぶお弁当の中、どこか誇らしげだ。
　デザートには、容器を別にして、イチゴと皮を剥いた甘夏も用意した。
「圧巻ですね……」
「スーパーで旬の食材が並ぶと、尚輝先生に食べて頂きたいなと思うんです……」
　ふわりと微笑んで、時子は言う。
「それに、お弁当のおかずを考えるのって楽しくて……」
　２人で「いただきます」を唱えれば、お弁当の時間の始まりだ。
「ああ、しみじみしますね……。美味しいです、すごく」
　サザエご飯を口に運んで、五十嵐先生が声を零す。
　お口に合ったみたいで良かった、と、時子はそっと目元を和らげた。
　そうしてふと、思い出したことを口にする。
「そういえば、数日前、ねずの湯に行ったんです」
　弾む声で、時子は語った。
　以前、身体がぽかぽか温まっているところに冷えたコーヒー牛乳を飲むと最高なのだと教えてもらったこと。
　そして、それを初めて試してみたのだということを。
「検証結果はどうでしたか？」
「ふふっ、最高でした。お風呂上がりのコーヒー牛乳って、本当に格別美味しいんですね」
「そうですか。それは良かった」
「尚輝先生は、お風呂はどうされてるのでしょうか？」
「僕ですか？　研究室で寝泊りするのが常ですし、まあ、それこそ銭湯の世話になったりも」
「そうでしたか……寒い日は特に、湯冷めしないよう気を付けてくださいね」
「ああ、はい。そうですね、肝に銘じておきます」
　食後は、五十嵐先生がビーカーに珈琲を淹れてくれた。
　ほっと息をついて、時子は時計へと眼差しを遣る。
　もう少しゆっくりしたいが、そろそろ教室に戻らなくてはいけない時間だ。
「ここにいると、お昼休みがあっという間に過ぎてしまいますね」
　２人分のお弁当箱を、持ち帰らんと手に取る。
　五十嵐先生は、お弁当を綺麗に完食していた。
（全部食べてもらえたら、嬉しいですね……）
　唇を綻ばせる時子へと、「ありがとうございました」と五十嵐先生が言う。
　見れば彼の口元にも、柔らかな色が乗っていた。