突撃！あなたのお弁当タイム｜リアクション

突撃！あなたのお弁当タイム

　八神修の昼食は、シェフ特製のお弁当であることが常である。
　そうして、食事を終えたあとには、優雅に読書をしてリフレッシュする――。
　しかし、今日は随分と様子が違っていた。
「これは……中々に骨が折れそうだな……」
　ごくり、修の喉が鳴る。
　頬に冷たい汗を伝わせる修の前には――購買！
　お昼時の購買は、昼食を求める生徒達で既にごった返している。
　その中へととび込んでいくのは、まさに戦いだと修は口元を引き結んだ。
　けれど、ここで退く、或いは妥協するという選択肢は修の中には存在しない。
（目指すは、焼きそばパンだ。俺も頑張る！）
　人だかりの中へと、えいっ！　とばかりに身を滑り込ませる修。
　むぎゅ、と人波に押されながら、それでも修は懸命に手を伸ばした。
「や……焼きそばパンをくださ……」
　手のひらの中の硬貨と引き換えに、何かがぽんと手渡される。
　泳ぐようにして人混みから抜け出せば、それはコロッケパンだった。
　覚悟はしていたものの、ちょっぴりガクッとくる修である。
「でも、ま、コロッケパンも美味いから……良い……か……」
　気が抜けたようになって、修はその場に膝をついた。
　俯き、動けずにいる修の頭上から、声が降ったのはその時だ。
「修君？」
　一瞬前まで力尽きていたのが嘘のような素早さで、修はがばっと顔を上げた。
　何せ、耳をくすぐった声は、修の心を柔らかく弾ませるものだったのだ。
「あおい！」
　名前を呼べば、七夜あおいは「大丈夫？」と小首を傾げた。
「へ？　え、ああ、大丈夫。うん、全然平気だ」
　偶然の出会いを嬉しく思いながらも、気恥かしさに早口になる修。
　立ち上がって事情を説明すれば、「それは残念だったね」とあおいは笑った。
「ええと……あおいは昼はもう食べた？」
「それが、まだなんだ。今日はひとりだし、どこで食べようかなって考えてたところ」
「なら、一緒にどう？　そうだな……例えば、中庭とか」
　いいね、とあおいの口元が綻ぶ。
　そうして２人は、中庭へと向かい、「いただきます」と声を揃えた。
「それにしても、修君とコロッケパンの組み合わせはレアな感じがするね」
「そうかな？　でも、うん、ちょっとわかるかもしれない。実は、好きなんだけどね」
　炭水化物同士の乱暴なコラボなのに不思議と美味しいんだよなと笑えば、
「それ、ものすごーくわかる！」
　と、身を乗り出すようにしてあおいが同意を示す。
　その勢いに、修はついつい噴き出してしまった。
「あ、修君、何で笑うの？」
「いや、ごめん……そうだ、半分食べる？」
「え、いいの！？」
　差し出されたコロッケパンの半分に、幸せ顔でかぶりつくあおい。
「美味しそうに食べるな」
「だって、美味しいもん。……あ、修君。お礼に私のおかず、良かったら」
　手作りのお弁当の蓋を、あおいが開ける。
　揚げ損なったらしい真っ黒の唐揚げや、ぐちゃぐちゃの玉子焼きが並んでいた。
「ええっと……出来は、この通りだけど」
「いや、自分で作ってこれるの、ほんと凄いよ」
「あはは、ありがと。今日はね……春野菜のサラダは中ではマシなんじゃないかな、って」
「お、いいな。それを貰おうかな。好き嫌いはないけど、野菜は好きなんだ」
　あおいはどう？　なんて楽しく話をしているうちに、予鈴が鳴る。
「わ、もうこんな時間かぁ」
「楽しい時間はすぐ過ぎちゃうな」
　残念な気持ちは抱えながらも、「午後も頑張ろう」と修はあおいへと笑い掛けた。

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