突撃！あなたのお弁当タイム｜リアクション

突撃！あなたのお弁当タイム

　究極のカレーを求める会の会長たる鬼河内萌のお弁当は、勿論、カレー弁当だ。
　しかし今、萌は未曾有（？）の危機に直面していた。
「うっかりしていたよ……計算ミスった……」
　究極のカレーを求めるにあたって、スパイスや食材等の購入は欠かせない。
　究極のカレー作りに没頭しすぎた萌は、今月のお小遣いをほぼ使い切ってしまったのだ。
　具材も、昨日作ったカレー（今日のお弁当にもなっていた）の分でお終いだ。
「うう、明日のお弁当の具も買えないよぉ……具無しカレーだけは避けたいけれど……」
　それでも、『その辺の明らかにヤバそうな食材』を具にする勇気は萌にはない。
　どうしたものかと深刻な顔で考え込む萌の耳に、ふと、同じクラスの七夜あおいの笑い声が届いた。
　今は昼休み。あおいは今日は、教室でクラスメイトとお弁当を食べているらしい。
　ピン！　と、萌の頭に閃きの光が走った。
（恥ずかしいけど……もう、これしかない！）
　とにかく何とかしなければ！！　という決意を胸に、萌は空になった弁当箱を連れてあおいの元へ。
「あおいちゃん、ちょっと、折り入ってお話が……」
「え？　萌ちゃん、どうしたの？」
　かくかくしかじか、萌は頬が火照るのを感じながらあおいに事情を説明する。
　そうして、「お願いっ！」と両手を合わせた。
「明日のお昼の為に、何かオカズを恵んでくださいっ！」
「それは大変だね……いいよ、私も協力する！　うーん、何がいいかな？　卵焼きは……」
「卵焼き！」
　萌の目が、ぴかっと輝く。
「ええっと……卵焼きでいいの？　本当に？」
「もっちろんだよ！　絶対カレーに合うもん！」
　じゃあ……と、あおいがそっと、自作の卵焼きを萌の弁当箱の中に入れる。
　その時初めて、萌はあおいが本当に卵焼きでいいのかと念を押した理由を理解した。
　それは、卵焼きという名の黒い塊だったのである。
「ワ、ワア……アリガトウ、アオイチャン」
「その……他の人にも、声を掛けた方がいいかもしれないね」
「他の人……ののこちゃん、とか？」
「あ、ののこちゃんなら、今日は学食だって言ってたよ」
　謎の物体と有益な情報を得た萌は、早速学食へと向かった。
　あおいにしたのと同じ説明を繰り返して、
「じゃあじゃあ、唐揚げなんてどうかな！？」
　と、萌は野々ののこから鶏の唐揚げをＧＥＴ。
　お礼を言ってののこと別れたあとで、萌は「うーん」と考え込む。
「もうちょっと粘りたいところだけど……ユウくん……ユウくんはなぁ……」
　あおいやののこは、同性だし、さっぱりしているのでまだ良かった。
　だけど、と、萌は野菜原ユウの反応を想像する。
「絶対バカにされるよね？　うう……恵んで貰うのは止めとこうかなぁ……」
「何だ？　恵んで貰うって？」
　声に、がばりと振り返る萌。そこに立っていたのは――、
「ゆ、ユウくん！！」
「うわっ！？　あんま大きな声出すなよ、鬼河内」
　ユウが、大げさに耳を押さえてみせる。
　そんなユウの前で、萌は大パニックに陥っていた。
「こ、これは何でもないからね！？」
「は？　何がだよ？」
「お財布がピンチで明日のお弁当の為にカレーの具を貰って回ってるだなんてそんな！！」
「お前……マジか……」
　ユウが呆れた顔になるのに、ハッと我に返る萌。
「う、うう……」
「ったく、しゃあねぇなぁ。俺、飯今からだから、俺も何かカンパしてやるよ」
「へっ？」
「ありがたーく思えよ？　おっ、豚の生姜焼きとかどうよ？」
　日替わり定食のメニューを確かめながら、ユウが言う。
「……豚の生姜焼き、イケるかも！」
　と、萌の顔に、ぴっかぴかの笑顔の花が咲いた。

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