突撃！あなたのお弁当タイム｜リアクション

突撃！あなたのお弁当タイム

　新歓祭での出来事は、華城尊の脳裏に深く焼き付いていた。
　知人の思いつきに付き合わされる形で、新歓祭にて焼きそばパンを提供した尊。
　尊の作った焼きそばパンは、人に供するに相応しい『味』に仕上がっていた……の、だが。
（『味だけではなく見た目も大事』、か……）
　それこそ、新歓祭を経て、尊の中で明確になった課題だった。
　片方は、見た目が悪くても味は絶品。
　もう片方は、見た目が完璧でも味は絶望――。
　両極端な２種の焼きそばパンは、周囲の好奇心も煽って人気を博した。
　そして、そのうちの前者をこの世に生み出したのが、他ならぬ尊である。
　尊としては、そのようなカテゴリに自身の料理が分類されるとは思わなかったのだが、
（ともあれ、あの時両方が伴っていれば被害者は少なかったはずだ……）
　という具合のことを、真面目な尊は考えるに至っているのだった。
　とはいえ、新歓祭の時には、見てくれは味の次に来るものだと疑っていなかった尊。
　問題は、その折、知人が作成したアンケートである。
　その結果が尊の予想を裏切るものだったことが、尊を今、台所に立たせていた。
　アンケートの結果は正直に言えば心外だったが、色々あって、
「『見た目も美味しく練習すれば良い』……まあ、間違ってはいないだろう」
　という風に一応は納得し、けれど尊は、どうしたものだろうかと調理台の前で腕を組む。
　これもまた色々あって、尊には、翌日には結果を出さなくてはいけないという過酷なノルマもあった。
「……まず、見た目が悪いとはどういう状態だ？」
　スタートはここからである。
　考えて考えて――尊は、一つの答えに辿り着いた。
「やはり、盛り付けが原因だろう」
　新歓祭の時に作った焼きそばパンを思い出す。
　あれは確か、パンから具が盛大にはみ出していたはずだ。
「ここは試しに、盛り付けの練習から始めてみるか……」
　と、尊が取り出したるは添え物用の小ぶりの弁当箱。
　ここにサラダを綺麗に盛り付けることができれば、一つハードルを越えたことになるに違いない。
（食欲をそそるようにしないといけないな。バランスも考えて……）
　野菜を切るところから始まって、すべての作業に全力で臨む。
　そして、その真っ直ぐな努力の結果、
「…………」
　尊は、沈痛な面持ちで沈黙するに至った。
　弁当箱の中は、「サラダとは何か？」とその概念を問うている。
　草刈りを怠った夏の庭みたいな状態だ。
　こう、雑草とかが好き勝手に伸びまくっているみたいな。
（どうしてこうなった……）
　小さな弁当箱の中の大きな惨事に、ついつい遠い目になる――のを、尊はすんでのところで持ち堪えた。
　何せ尊には、明日には結果を出さねばらならないという、使命があるのだ。
　そして、長きにわたる熟考の末。
　尊は、大きな弁当箱いっぱいに、自作の、味は絶品である焼きそばを詰め込んだ。
　素晴らしい見栄えとはいかないが、弁当箱に焼きそばを入れただけなので見られなくはない、うん。
「……人生において。こんな逃げを打った事は初めてだ……」
　焼きそば弁当を前にどこか哀愁漂う声で呟き、尊は少し項垂れた。

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