怪人セブンの正義｜リアクション

怪人セブンの正義

【21】

　ゲートのシャッターが空いたことで、機動隊が遂に突入。
　人質はダクトに隠れていた者を含め全員保護され、叢雲団員総勢50名は全員逮捕された。
　終わってみれば、なんてぬるい展開。
　絶望なんてなかった、と笑って言ってしまえるほどの結末。
　だが、忘れてはならない。
　この展開は、希望を捨てなかった50名の人質が死力を尽くした結果なのだ。
　そして、最後までフツウを死守しようとした50名のもたらした奇跡でもある。

　マスコミの一部が、この奇跡の脱出劇を取材しようと人質にインタヴューしようとするが、寝子高新聞部の八神と三ヶ島の『演出（という名の一部でっち上げ）』によって、ろっこんや寝子高生の過度な活躍を抑えた情報が世間に流れ、結果的にそんなに話題になることがなかったのは幸いといえよう。
「こういう事件は、公的権力の早期介入が鍵なんです。ですから、開始僅か２時間というスピード解決が実現したのです。流石、日本の警察は優秀です」
　ただ、八神は顔こそ隠れているが、そのコメントが後日、幾度か昼のワイドショーに取り上げられていた事実を、八神本人は知らない。

　寝子電スタジアムでの事情聴取を終えた三下ゴローは、ゲッソリとした顔で帰路に着いてた。
「んだよ……。俺の他に偽セブンの書き込みした奴、誰だよ……。今日は純粋にサッカー見に来ただけなのに、テロに遭うわセブンのことを警察に聞かれるわ、散々だぜ……」
　道端に転がる空き缶を蹴飛ばしながら、ぎりぎりとゴローは奥歯を噛み締める。
　そこへ、１人の少年が後ろから声を掛けてきた。
「……まさか、こんなところで会えるとはね。セブンの書き込みがあったから、用心してきてみて事件に巻き込まれた甲斐があったよ」
　少年の名は犬飼未央。その顔は、満面の笑みだ。
「三下ゴローさんですね。……そうですよね？」
　未央の傍らには、存在感が希薄な盲導犬が寄り添っていた。
　その犬に、ゴローは見覚えがあった。
「お、おい、まさか、お前……」
「気付いてくれました？　あなたに用事があって、ずっと今まで探してたんです」
　未央は茶封筒をゴローに差し出した。
「１週間後、この中に入っている指定の場所で会いましょう。ああ、あなたに会わないという選択はありませんので」
　ゴローは封筒の中身を確認した。
『すべてを　しっているぞ』と書かれた手紙と、落ち合う場所が示されていた。
「では、１週間後を楽しみにしてますね」
　未央は足取り軽く去っていく。
　対してゴローは頭を抱えて途方に暮れていた。
　茶封筒をグシャグシャに握り締めながら。

「如月くん、私たちはこれで良かったのでしょうか？」
　屋敷野はしょんぼりしたまま、お好み焼き『うさぎ屋』で食事を摂っていた。
　事情聴取後、宇佐見たちに誘われて事件に関わった50名がお疲れ会を開催することになったのだ。
　しかし、この２人のテーブルは覇気が感じられない。
「あー？　いいんじゃねぇか？　俺たち役割被りまくりで、大暴れしてた奴らに全部お株奪われちまったもんなぁ……」
　如月もいつもの勢いが全く感じられない。
「うちも情報統括はしてたけど……、あまり動いた覚えがなかったなぁ……」
　七緒もなんだかさっぱりな後味を抱いていた。
「もう少し積極的に動くべきだったのでしょーか？　……まぁ、終わり良ければすべて良し、と言いますしー、無事に生還できたのでー……」
「そういうことにしようぜ……。ほら、焼けたから食おうぜ」
　如月は食べやすいサイズにカットすると、屋敷野と七緒へ数切れ寄越した。
「今日は食って、パーっと行こうぜ、パーっと！」
「そうですねー！　如月くんは良い事いいますねー！　それじゃ、いただきまーす！　七緒先輩はマヨネーズ掛けますかー？」
「うん、どんどん掛けて、こずっちー。おっしゃー！　食うぞー！！　ウラー！！　あー、っつーかうち、血中オッサン成分欠乏なう～。オッサンにお好み焼きアーンしてもらいたいー」
　……そういう時もあるさ。めげずに頑張れ、若人たち！

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