海神の庭にて｜リアクション

海神の庭にて

「疑問に思わないかね」

　旅鴉月詠はウミコーギーたちを前にして、そう言った。

「えっと」
「何がですか」

　ウミコーギーたちは何を訊かれているのかさっぱりわからないといったように、皆首を傾げている。月詠は首を傾げているウミコーギーを一瞥し、また口を開く。

「ほら、まず君達の存在だ。海コーギーだよ」
「僕たちがどうかしましたか」
「陸に住んでいた君達が、海に住んでいる事に疑問はないのかね」

　月詠の言葉に、ウミコーギーたちは顔を見合わせ、まるで意識していなかったことを改めて指摘されたことに呆然としていた。生前のことを思い出して、きゃうんと情けない声を出した。

「た、たしかに！」
「ということはだ。海に住む生物でなくとも、海に適応させればよいわけだ。そうだな」
「たしかに……他の人も、陸のいきものをつくってました」

　ウミコーギーの言葉に月詠はうんうんと頷きつつ、さて何を作るかと思考を巡らせた。海とは。生命のスープともいわれるそれとは。原初の生物の故郷。海が人の子のイメージに応えるならば、月詠もまた、何か作らずにはいられない。

「……あれ、月詠さん」

　岩の隙間に月詠の姿を見て、桜月は声を漏らした。ウミコーギーはそれを見て、知り合いですか、友達かな、と色々言葉を投げかける。月が様子を見ていれば、どうやら彼女もいきものを創るところらしい。

「邪魔したらだめだね」

　と、月は月詠から視線を外した。

「桜さんはなにつくりますか」
「そうだね」

　月は海の中でひときわ目立つ、赤い瞳を揺らめかせて、何を作るか――幾つか、軽く思いついたものを頭の中でとっかえひっかえ。そして納得すると、

「私のデザインを手伝ってくれるいきものが居たら嬉しいな」
「たとえば、どんな」
「そうだね」

　瞳を閉じて、彼女がデザインをするときに使う道具を一つ一つ思い浮かべる。ペン。糸巻車。機織り機。ハサミ。縫い針。それらのような見た目をしたいきもの。この海中においても、機能するようなそれをイメージして、月は目を開いた。

「こういったものだよ」
「わあ！」

　ウミコーギーは、創造されたいきものに目をぱちくりさせて、月を見る。月は一つ一つそのいきものを手に取って、説明した。ウミコーギーにとって生前見覚えのある、しかしよく知らない物が、月の手に代わる代わる乗せられていく。

「……実際使って見せた方が早いかな」

　月は早速衣装の作成へ取り掛かった。

「それにしてもお兄さん、全然驚かないのね」
「それはたしかに……変じゃないですか？」

　喋るワカメに、海を泳ぎ、喋るコーギー。そのふたつからそう問われた男はかくり、のほほんと首を傾げ、

「……驚いていますよ？　これでも」

　と言った。

「嘘だあ」
「全然顔に出ないですね」

　喋るワカメは、先程この男――志波甲斐斗に創られたばかりなのにも関わらず、すらすらと生意気に。ウミコーギーは戸惑いながら甲斐斗に感心した。

「変なことがよくおこる、とは思っていましたが……いざ、こう体験してみると驚きます」

　それでも微力ながら協力しよう、とウミコーギーの話を聞いて尚、甲斐斗は言った。そんなやりとりを終えた後のこと、喋るワカメも作り終えて甲斐斗はどれ次はと思考を移す。

「さて、次は何を作りましょう」

　考えていると、近くから話し声が聞こえることに甲斐斗は気付いた。音の源を覗いてみれば、そこには白銀の髪と紅玉のような瞳を持った少女が二人。甲斐斗はそれを見てふむ、と顎に手を当てる。
　――……このコーギーさんたちの飼い主さんも作ってあげましょうか
　などと考えながら。