海神の庭にて｜リアクション

海神の庭にて

「貴様達も大変だな」

　一通りの事情を聴き終えたのち、浮舟久雨はウミコーギーの頭を撫でていた。撫でられているウミコーギーは心地よさそうに久雨の手を受け入れている。

「ほんと海神様って気まぐれなんだから」
「でもこうしていろんな人に会えて楽しいです」

　その言葉に久雨は安心しながら、止まりかけていた手を動かす。ウミコーギーは撫でられるに任せて、眠りそうになっては久雨の手の感触にびくりと起き上がる。久雨は慌てて手をウミコーギーの頭から離した。

「コーギーを間近で見るのは初めてでな。すまない」
「大丈夫です」
「僕らも撫でられるのははじめてで」
「でも嬉しいです」

　久雨はほっとしてまた手をウミコーギーの頭に伸ばそうとするが、そこで自らのすべきこと――コーギーの手伝いを思い出し、その手を引っ込めた。

「それで、いきものを創るんだったな」
「そうです、目を閉じて、イメージして」
「目を開ければ、出来てます」

　ウミコーギーたちの拙い説明で理解した久雨はそれでは早速……と目を閉じかけたが、途中で止めた。ウミコーギーはその様子に首を傾げている。

「どうしましたか」
「……悪い。少し、時間をくれ」

　久雨はウミコーギーたちに不思議がられつつも、その中の一匹を連れて海の中を泳ぐ。
　澄んだ青さを持った髪を靡かせながら。

「今度は、別のいきものを思い浮かべるのだ」

　小麗はウミコーギーに見守られながら、もう一度目を閉じた。先程作ったパンダも、腕を組んで小麗を見守っている。小麗の頭は、今度こそパンダ以外を……と、イメージを絞り出している。

「うぉ、ヒトデが頭の中に浮かんできたのだ……」

　小麗の瞼の裏には、うにょうにょとヒトデが元気よく蠢いていた。

「どうしてしゃおりーはヒトデを……でもヒトデも生き物だから、大丈夫……か……」

　少しの逡巡の後、小麗は目を開けた。そこには立派なヒトデが浮かんでいる、そっと裏側を掴んでみると、何も言わずそっと元に戻す

「裏はちょっとこわいですね」
「うん……見ない方がいいのだ」

　パンダにヒトデ。共通点の薄い二つを見ながら、小麗は今度はなにを創ろうか……と目を閉じる。イメージが作ったのは……

「ぐぁー！」

　のんびりした垂れ目に、弛緩した四肢を投げ出しているいきもの。

「うっかりナマケモノをイメージして目を開けてしまったのだっ」

　小麗の前には、ナマケモノがウミコーギーに支えられて浮いていた。やる気のなさそうな身体が潮の流れに投げ出されそうだ。

「ナマケモノ、海で生きていけるだろうか……」
「……たぶん？」

　小麗の心配も右から左、ウミナマケモノは暢気に目を閉じ、寝息を吐き始めた。

　もこもこした白い毛並みですっくと海中に立ち、岩を蹴ってすいすいと泳ぐアルパカ。それを想像した五月は、ウミアルパカを作りたくなってしょうがなかった。別のものをと考えても、ウミアルパカは五月の頭の中の海で優雅に泳いでいる。時折泳ぐ足を止めて、じっと五月を見るのだ。

「私はウミアルパカを作ろうと思います！」
「おおっ！」
「ウミアルパカ！」

　ウミコーギーたちもわーわーと歓声を上げ、五月の作るウミアルパカの出現をそわそわと眺めている。五月は目を閉じて、そのアルパカの白く、もこもこの毛並を、長い首を、足をしっかりとイメージする。

「もこもこ……アルパカ……アルパカ……」

　固まったイメージを胸に、五月は目を開けた。その視線の先には、ふわふわの毛並みを持ったウミアルパカが、海の水に負けずにもっふりとそのもこもこな身体を晒していた。

「なでても良いのかな……？」

　しっかりと作れていることに安堵しながら、五月はウミアルパカの背に恐る恐る手を伸ばす。
　仲良くできるだろうか。不安げなその手は、ふわっとした毛で迎えられた。ウミアルパカは満更でもなさそうにその手を受け入れている。五月はゆっくりと手を動かして、ウミアルパカを撫で始めた。