海神の庭にて｜リアクション

海神の庭にて

　子供の想像力に刺激されたモニカは、今度はこういったいきものを創った。ぱかっと開いた貝殻をカンカンと鳴らす、二枚貝のカスタネット。海中で目立つ乾いた音が楽しい。次に想像するのは、その身体を震わせれば凛と響き渡るベルのような巻き貝。
　既に出来上がったいきものたちの鳴らす音に、貝たちの鳴らす音が快いアクセントとなって海の中音楽を奏でる。

「たしかにこれは、楽しいです」
「海神様喜びそう！」
「ふふ、ちょっとだけって思ったけど、作ってみると楽しいものね」

　それからそれから……と、モニカはウミコーギーの上でいきものを創っていく。魚が上を撫でればそれに合わせて澄んだ音が鳴る、グラスハープの如き珊瑚に、つがいと身体を合わせて音を鳴らす、シンバルのようなクラゲ。彼女の載るウミコーギーが通った後はいろんな音が響いて、賑やかだ。子供っぽいけれど、夢の中だものね。そう笑いながら、モニカはウミコーギーから降りて、誰かの作った花畑へ降り立った。

「お付き合いありがとう。この海がいきものでいっぱいになるといいわね」

　ウミコーギーは名残惜しそうにモニカを見ながらも、やがて遠い海へ消えていった。

「さてと、他にはどんないきものが出来てるかしら」

　モニカはうんと伸びをして、海底散歩へ向かう。
　その上を、賑やかな魚の楽団が泳いでいった。

　流は自らの側を泳ぐウミコーギーを見て、海神様とやらがどういった生き物を好むか考えていた。コーギーを海に適応させた、ウミコーギーなどという生き物がいるくらいだから、並大抵のありきたりな生き物では満足しないであろう。既に地球上に存在しているアザラシだけではあとすこしと言ったところだろうか。

「よし」
「決まりましたか！」
「アザラシを越えたアザラシ、名付けてキングアザラシの制作にとりかかるとするぜ！」

　わーわー、ぱちぱち。ウミコーギーたちも盛り上がって流の創造を見守り始めた。流は気合を入れ、かっと目を閉じキングアザラシを思い浮かべる。
　――これでどうかな、と
　ミナミゾウアザラシを超える巨体。その頭には、王に相応しい煌びやかな王冠。その顔にはカイゼル髭が威厳を表して……流の想像はどんどん広がっていく。ウミコーギーたちはキングアザラシの出現を今か今かと待っている。流は想像上のキングアザラシにふわふわのファーがついた深紅のローブを羽織らせ、その前ヒレには宝飾品で光るゴージャスな杖を持たせ、首にはさまざまな宝石でカラフルに彩られたネックレス。大凡イメージし終えて、ついに流はその目を開けた。

「ぬぅぅ……」

　周りの者が次々といきものを創造している中、李小麗は先程からずっと、うんうん唸っていた。

「んぐーんぐー……」
「だ、大丈夫ですか？」
「んんんぅ……」
「頑張ってください！」
「大事なのは想像力って海神様言ってました！」

　それをウミコーギーたちが、心配そうに見つめている。小麗は柔らかそうな頬をむむむっと空気で膨らませて、ある一点まで達してからぷかぷかと泡を吐き出した。

「パンダ……パンダばかり頭の中に浮かぶのだ……っ！」
「パンダ……」
「パン……太鼓みたいないきものでしょうか」
「違うのだ！」

　海のいきものをイメージするべきであるはずなのに、頭に浮かぶのはパンダばかり。ウミコーギーにパンダがどういうものか教えた小麗は、しかしパンダのイメージから離れられずまたうんうん唸った。暫し悩んで、もうパンダしか思い浮かばないのであれば仕方がないと開き直り、泳げるパンダをイメージする。

「これで目を開けると、パンダが出てくるのか？」
「そうですよ」
「パンダできるの楽しみです！」

　わんわん喋る彼らがウミコーギーであれば、小麗が想像しているのはウミパンダと名付けるべきだろうか。それはさておき、心得た小麗は、いっせーのー……と集中し、カッと目を開いた。
　そこに生まれたのは――