海神の庭にて｜リアクション

海神の庭にて

「ぬぁ、パンダが生まれたのだ！」

　小麗の目前に現れたのは、筋骨隆々の身体をモリっとアピールするマッチョなパンダであった。どこからか流れ着いた上半身山羊、下半身魚のいきもの、パーンと筋肉比べをしているパンダを見て、小麗はあわわと泡を吐く。想像の途中で、関係のないことを考えてしまったのがいけなかったのだろうか、ふわふわでまるいパンダのイメージとは全然違ったいきものとなってしまった。普通のパンダだったらウミパンダとなったのだろうが、これではウミマッチョパンダだ。

「これがパンダですか？」
「ムキムキです」
「違うのだ！」

　ウミコーギーの認識を訂正しながら、小麗は肩を落とす。しかし、パンダの頼もしそうな力強い肉体に、小麗の気も暫しすれば持ち直した。
　――……まぁ、これはこれで、ボディガード役として頼もしそうだからいいのだ。
　パンダはそんな小麗の考えも知らず、そのムキムキボディをウミコーギーたちに触らせている。

「よし、次なのだ！！！」
「その意気です！」
「頑張ってください！」

　パンダとパーンの腕に持ち上げられ、わーわーと暢気な声を上げているウミコーギーたちに応援されつつ、小麗はまた目を閉じた。

「やあ、これはまた不思議なところですねー」

　ウミコーギーの群れと共に泳ぎながら、薄野五月はふっふと笑った。泳いでいる間におおよその事情を聴いた五月は、申し訳なさそうなコーギーの姿にまた微笑み、言う。

「困ったときはお互い様です、私もお手伝い致しますよー」
「ありがとうございます！」
「やったあー！」

　喜ぶコーギーたちに癒されながら、五月は手頃な足場に腰を下ろした。

「では、早速やってみます」
「おねがいします」
「目を閉じてイメージ、ですよ」

　やり方をもう一度確認して、瞼を閉じる前に五月は今までに見た様々な水棲生物を思い浮かべた。魚、クジラ、ペンギン、アザラシ……。

「さて、何にしましょうかー」

　うーん。唸りながらも考える五月を、ウミコーギーの群れはわくわく、そわそわしながら見守っている。

「やはり海にちなんだいきものの方が良いのですかね？」
「それはごじゆうに」
「僕たちみたいに、もともとは海に適さないいきものでもこんな風に泳げるようになりますので」

　――ウミコーギーさんがいらっしゃるなら、ウミアルパカもいても良いのでは……？
　ウミコーギーの存在にはっと、五月の身体に電流走る。

「こ、これがキングアザラシ……！」
「すごく……大きいです……」

　目を開けた流の前には、想像通りの威厳ある姿があった。キングアザラシはローブを翻してむふっと笑う。口を開けばごぼぼぼと大量の泡が吐き出された。ウミコーギーたちはざわざわと突如現れた王に戸惑っている。

「よっしゃ！」

　流は想像通りの姿に昂ぶりながら、

「それなら今度はアザラシ帝国を建国させてみせるぜ！」

　キングアザラシは、自らに傅く臣下が作られるのを尊大な態度ながら待っている。流はその期待にこたえるかのように、ぽこぽこと配下のアザラシを作り上げていった。丁寧に、兵隊のような恰好をしている。

「んー、やっぱアザラシはいいよなー」
「かっこいいです」
「海上様の居ない海にもアザラシ帝国、あるでしょうか」
「どうだろうなー」

　一匹、また一匹とアザラシが増えていくことに、流はどこか満足げだ。先程作り上げた既存のアザラシたちにもほっこりと癒されつつ、そのフォルムの精巧さに我ながら感心する。

「うん、我ながらほれぼれするフォルムのアザラシ達ができたもんだぜ」

　そうして出来上がったアザラシ帝国が、雄々しく海を進むのを、流は目を輝かせながら眺めていた。