海神の庭にて｜リアクション

海神の庭にて

　溺れそうになっていたところを、英モニカはウミコーギーに助けられた。ウミコーギーは慣れた様子でその背にモニカを乗せて、海の中を進む。
　――それでも泳ぎが苦手なのは現実味があるのね。
　と夢の世界を思いつつ、モニカは海のなかに生まれつつあるいきものたちが、ゆったりとその身を潮流に任せて漂っているのを横目に、ウミコーギーの進むに任せた。
　道中説明を聞きながら、モニカはものは試しにと地上で聞き知った魚や、海藻に珊瑚と普通の海にもよくあるいきものを作ってみる。イメージのまま映し出されるいきものたちに感心しながら、しかしふっと息を吐いた。呼吸は問題ないもののぷかぷかと泡になる空気が不思議だった。

「ありきたりな生き物しか思い付かないわ……」
「そ、そうですか！？」

　そもそも海の魚などを見たことがないウミコーギーたちは、モニカのいうありきたりないきものたちも新鮮なようである。なんだか物足りないと思うモニカ。
　その目に、大きな、しかし普通の常識に照らし合わせれば常識はずれな、ピンク色のクジラが映った。こどもの読む絵本に出てくるような、柔らかく可愛らしいタッチのクジラは、気儘に海を泳いでいる。

「わあ、すごいわ！　ほんとうにできた！」

　自らの創造したピンクのクジラがどっしりした身を軽やかに滑らせて海中を進むのを見て、リタはぱちぱちとその両手を叩いた。

「私も負けてられないわね」

　アリアもそれに触発されて、いきものを作り始める。目を閉じた彼女の瞼の裏に浮かぶのは、上半身が山羊、下半身が魚の、神話に語られる存在。低きは海底から、高きは山の頂上まで。あらゆる場所に至るいきもの――パーンだ。どこかで見たリアルな姿を思い浮かべて瞼を開けると、その通りの姿を海中に現した。

「アリアおねえさんのいきもの、なんだかちからづよそうでかっこいいわ」
「でもあまりにも可愛くないわね」

　リタにそう言われてパーンはマッスルボディを誇るが、アリアの言葉には少ししょんぼりして、ウミコーギーの群れと戯れ始めた。ウミコーギーは遊び相手が出来たことに喜びながら一緒に海中を泳いでいる。

　――今度はこれから、もっと愛くるしくなるように……！
　――でもクジラだけじゃおもしろくないわ！
　リタもアリアも、ただひとつ創り出すだけではまだまだと瞼を閉じた。アリアが思い浮かべるのは、先程よりもずっと可愛らしく、親しみを持てるようにデフォルメされた姿だ。アリアの想像に合わせて、新しく生まれたパーンは粘土のようにこねられるように、リアルな姿からデフォルメされた姿に変化する。
　リタが思い浮かべるのは、ぷるぷるの身体を虹色に染めたクラゲの姿だ。透明な傘が、海中の微かな光に当たって、ある時は赤、ある時は青、緑、黄色、紫と七色に変化するような。

　――うんっ、こんな時間も楽しいわね！

　イメージをこねくり回しているうちに、アリアは自分がこの時間を楽しんでいることに気付いた。ある程度イメージが固まった二人が目を開けると、デフォルメされた、マスコットのようなパーンの姿と虹色のクラゲがそこにいる。

「出来たわねっ！」
「すごいわすごいわ！　とってもふしぎ！」

　アリアは思い通りの姿を想像できた達成感に満足し、リタはイメージそのままの姿がまた目の前に作られたことに屈託なくはしゃいでいる。ウミコーギーは順調に海のいきものが作られていくのを見て、二人と一緒に喜んだ。

「わぁっ、すごい！」
「皆さんやる気満々で助かります！」
「まだまだよ！」
「ええ！」

　想像に興が乗ってきた二人の淑女は、未だ閑散とした海にいきものを増やすべく目を閉じた。

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