魔王再臨～Komm, du süße Todesstunde｜リアクション

魔王再臨～Komm, du süße Todesstunde

●たとい肉体がこの世にて～Der Leib zwar in der Erden

　世界樹の森と、魔王城での戦い――先代まおうの死に端を発した騒乱は、こうして無事に終結した。まかいに根を下ろす世界樹、その魔力の循環も守られて、まおうもゆっくりと忘却の流れへ戻っていくのだろう。
「つちねこさん、皆……大丈、夫？」
　森で戦いの手当てをしていた夏朝たちは、其処で不意に眩暈に襲われて――気が付けばこの戦いに関わったまもの達全てが、荘厳な玉座の間へと集っていた。
「あれ？　ここは……」
　尻尾を振って駆け出そうとするホンタくんをなだめつつ、きとりが辺りを見渡すと、神妙な顔で佇んでいる皐月と目が合う。
「ここはまおう様の玉座……。しかし王の不在時は封印されて、誰も入れぬ筈なのに」
「って、玉座にちっこい猫がいるけど……あれって猫つちのこさね？」
　その朧の言葉通り、ちょこんと玉座に乗っかっているのは、森に居たまものの猫つちのこだ。まさか、と五月が素性を問えば、つちねこはつぶらな瞳でこくりと頷いた。
（先代様……なのか……）
　――やがて、言葉を介さずに彼の思念が一行に伝わってくる。ゲヘナの告げた通り、先代まおうは嘗て勇者であったが、どういう訳かまおうに選ばれて、今までまかいを統治してきた。
　しかし、自分の存在は色々特殊だったようで、死を迎えてまかいに溶けていく際に色々とあって、消滅が長引いてしまったのだと言う。
　その空白の時間に、オフィーリア達の反乱が起きてしまったのだが――皆のお陰でこうして解決し、自分もようやくまおうの座を明け渡すことが出来ると、先代は吐息を零した。
「……その姿は、魔力が関係しているのだろうか」
　どうやら月の考えは正しいようで、夏朝も考えていた通り、無数の魔力の欠片になりきれなかった存在が今の姿らしい。しかし霊廟に安置されている死体共々、やがて全てはまかいに還っていくのだから、大丈夫とのことだった。
「……さすがに少し疲れた、だが……まおうは死んでも大変なんだな」
　今までの経緯を簡単に説明された高久は、溜息を吐いて元の住処へと帰ろうとするが――そんな彼を、猫つちのこがじぃっと見つめている。
「何だ？　まだ何か……って、次のまおうとかそういう話なのか？」
　うむ、と威厳たっぷりに頷いた先代は――まかいが次のまおうに選んだのは、高久であると宣言した。これは世界の選択であるが、恐らくは守るべきものの大切さを知っている彼ならば、まかいをより良い方へ導いてくれると判断したのかもしれない。
「……そんな事を急に言われても、その。何だ。心の準備が」
　視線を宙に彷徨わせて高久が頭を掻くが、先代が認めた次代のまおうの元へ、真っ先に跪いたのは皐月だった。
「新たなるまおう様。私は守人として、この城を守り続ける事を誓います」
「……私も、貴方に忠誠を誓いましょう。貴方が善き方であることを願います、まおう様」
　更にレオンが恭しく膝をつき、樹も新たな主人へ無言で敬礼をする。その様子に高久も腹を括ったようで、任せろとばかりに猫つちのこの頭をわしわし撫でた。

（――あの時は、助けられなくてすまなかった）
　ふと、そんな声が彼の耳を掠めた気がしたが――気のせいかもしれない。そして最後に猫つちのこは、梢の持つ剣を懐かしそうに見つめてから、ゆっくりとまかいの大気へ溶けていったのだった。
「まおうさま……また、ね」
　ねこにまりも達と一緒に手を振って、行く末を見守った夏朝は海底遺跡へと帰っていく。やがてこの邂逅の記憶も失われ、新たなまおうを迎えたまかいの時は、緩やかに廻り始めるのだろう。
　――その時まで悠月は、まおうの為の鎮魂歌を歌い続けることを誓う。ああ、彼方に昇る陽の美しさと、降り注ぐ魔力の欠片の眩さよ。遥か遠い空を舞う、金色の時告げ鳥よ。
「……時間です。まかいの、夜明けです」

　そして――オフィーリア亡き後の死者の楽園は、由貴奈と日和たちによって統治されるらしい。死者からの信頼も篤いふたりならば、二度と過ちを繰り返すことは無いだろう。
　そう言えば管理人になるのも良いかと、月詠も一緒に付いていったようだ。死も眠りも同じ事、とは彼女らしい言葉だ。
（世界樹の傍らで、この世界を共に生きる皆と寛ぐ……か）
　枝に戯れる猫つちのこを見守りながら、修は動物たちとのもふもふ天国を楽しんでいた。皆それぞれに、まものの生を謳歌している――そう言えば、猫つちのこを見ていると忘れかけた何かを思い出しそうなのだが、それも直ぐに愛らしい彼らの鳴き声に掻き消される。
（過去は過去、今は今だ。こうして俺達は、今を生きている）
　――だから彼は、のんびりと寛ぎながらまかいの空を見上げて呟いた。
「なべて世はこともなし、だな」

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あとがき

担当マスター：柚烏
ファンレターはマスターページから！

柚烏と申します、この度はシナリオへご参加頂きありがとうございました。
『らっかみ！』のプレイヤーさんによって企画された『まかい』に纏わるお話、その一つを紡ぐことが出来てとても楽しかったです。
あくまでこれは沢山ある『まかい』の世界の一つのお話に過ぎませんが、このまかいは志波高久さんをまおうに選び、これからも栄えていくことでしょう。

なお、先代まおうの設定は、寄せられたアクションを元にこちらで考えました。
敵ＮＰＣの設定も、それに応じて掘り下げてみましたが……普段は文字数の都合もあり、ＮＰＣやシナリオの舞台の描写はあっさり済ませていたので、ＰＣさんと色々絡ませたりするのは凄く新鮮でした。
優しくも残酷な忘却、その切なさやこめられた想いを少しでも表現出来ていたらと思います。
またどこかで、まものの皆さんの雄姿が見られることを祈って。今回は本当にお疲れさまでした！

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