――死の運命からは、何物も逃れることは叶わぬ。それは絶大なる魔力を宿し、まかいを統べるまおうとて同じ。
世界の選定によりまもの達の中より覚醒するまおうは、数百年に渡る統治の後――その身を世界樹に捧げ、無数の魔力の欠片となってまかいに降り注いでいくのだと言う。
それが、偉大なるまおうの死――否、世界に溶けた瞬間に、まおうの存在全てがまもの達の記憶から失われるのだから、それは死をも越えた『忘却』となる。
そうして先代の遺恨を引きずること無く、新たなまおうが生まれまかいを治めていく循環が繰り返されることにより、まかいは大規模な争乱も無く繁栄していく――筈であった。
「……まおう、様」
――しかし。冷え冷えとした魔王城の霊廟にて、漆黒の柩を前に祈りを捧げていた
鳳翔 皐月は、奇妙な胸騒ぎを感じて天を仰ぐ。
魔王城の守人として、まおうの最期を看取っていた彼女であったが――緩やかな忘却がいつまで経っても訪れないことに気付いたのだ。先代の記憶を失い、まっさらな心で新たなまおうに仕える筈なのに、皐月の記憶には在りし日のまおうの姿が、朧げながら存在している。
「こんな事は、今まで無かった……のに」
いつしか、まおうの死を悼む厳かなオルガンの調べも、啜り泣くような鎮魂歌も聞こえなくなっていた。ただ青ざめた月の光が彩るステンドグラスだけが、幻灯機のように描かれたまもの達の姿を、ぼんやりと浮かび上がらせている。
――だが、皐月には惑う時間も与えられなかった。まおう不在の空白の時間、ほんの僅かに残ったまおうの側近のひとりが、息せき切って霊廟の扉を開け放ったのだ。
「守人様! 死者の楽園の女王が反旗を翻しました! 己こそが次期まおうであると僭称し、軍勢を率いてこの城に向かっています!」
「何の因果が生じたのかは知らぬが……まおうは完全なる忘却を免れた」
死者の軍勢を引き連れて、豪奢な輿に乗った女王は朗々と告げる。病的なまでの美しさを持つ彼女の半身は、腐り落ちた屍の肉体であり――生と死を等しく感じるが故に、死者の女王はまおうの異変にいち早く気付いたのかもしれない。
「まおうは未だ、まかいに還ってはおらぬ。次代のまおうが生まれることも無い。……その間に妾は、まおうの屍を取り込み新たなまおうとなってみせる」
――まおうの力の残滓を宿せたのなら、まおうとなる資格が得られるだろう。そうなればしめたもの、自身は死を超越した存在として、このまかいに永遠に君臨してやろう。
「勇ましき竜とて、死とは恐ろしいものらしいからな……奴にも役に立って貰うとしよう。世界樹を焼き払い、魔力の循環を滞らせられるのならば、簒奪も容易となろう」
くくっ――と唇を歪める女王、オフィーリアが目指すのは、魔王城の霊廟。彼女の軍勢には、機械街の機械兵たちも加わっている。混乱に乗じて城に攻め込むことなど、造作もないと女王は嗤った。
「グアアアアア、ァァァァ――!!」
大気をつんざく咆哮と共に、地獄の炎が森を焼き尽くしていく。まかいの聖域とも言われる世界樹の森は今、突如飛来した竜たちによって蹂躙されようとしていた。
先頭に立ち暴虐の限りを尽くすのは、火山地帯に住まう竜の中でも、勇猛で知られた獄炎竜――ゲヘナである。死病に侵されていた彼は、死者の女王の軍門に下ることにより、死してなお生きる屍竜となった。肉が失われ骨だけになっても、こうして在り続けることを彼は選んだのだ。
「何で急に、森が襲われたの……?!」
そんな中、あたふたと逃げ惑う精霊の少女は、がさがさと揺れた茂みに思わず身構えるが――其処から現れた存在を目にして、そっと肩の力を抜いた。
にゃあ、とのんびりとした鳴き声をあげてのそりと近づいてくるのは、世界樹の森にのみ生息する希少なまもの、猫つちのこである。世界樹から生み出される魔力と関わりがあるとの言い伝えもあるが、そんな事もどこ吹く風とやら、彼らはのんびり暮らしている。
「ほら、ここは危ないから、安全な場所に逃げよう?」
と、片っ端から猫つちのこを保護していく少女を横目に、一匹の猫つちのこが真剣なまなざしで竜の舞う空を見上げていた。
「死に抗うと言うのか、罪深き女王よ」
突如としてまかいを襲った争乱に、皐月は静かに呟いて剣を抜く。その背に広がる片翼から降り注ぐ漆黒の羽が、手向けの花のように柩を飾っていった。
――未だ、先代の存在が確かなものならば。守人である己は、この魔王城を守り抜く使命があるだろう。全てのものに甘い救済を――うたを口ずさむようにして囁いた皐月は、そっと口の端を上げて笑ったように見えた。
「だが……そうさね、きっと『死』とは甘いものなんだよ」
柚烏と申します。
・猫つちのここちらは『まもの化キャンペーン』の特典シナリオとなります。
当選された鳳翔 皐月さん、おめでとうございます!
勿論キャンペーンに参加してない方も、まものイラストを持っていない方も大歓迎です。これをきっかけに、まものの姿を考えてみても楽しいかもしれませんね。
舞台は現実世界とは違う、どこかの異世界『まかい』。其処での皆さんは不思議な『まもの』となって暮らしていました。そんな中、まおう不在のまかいを襲う危機が……それにどう立ち向かうか、と言うバトル中心のお話です。
●まかいについて
まもの達が暮らす世界で、まおうによって統治されています。まおうは一定の任期を務めた後、魔力の欠片となり消滅し、まかいに溶けていきます。
それと同時、まものの中から次のまおうが選ばれる……と言うサイクルを繰り返しています。その際、先代まおうの存在は世界から完全に失われ、まもの達の記憶からも消え去ります。
しかし今回、何らかのトラブルがあり、まおうは完全に消滅しませんでした。次期まおうも選ばれていない状況の中、まおうの座を狙って死者の楽園の女王が魔王城に攻め込んだ……と言うのが開始時の状況です。
※この設定は当シナリオ独自のものです。コミュニティ『まかい』を参考にさせてもらっていますが、同じとは限りませんのでご了承ください。
●まかいの主なエリア(括弧内は多い属性。白属性は平均的にばらけています)
・世界樹の森(緑)
まかいに魔力を満たす世界樹がある森。植物系、動物系、精霊系のまものが多い。
・海底遺跡(青)
海底に広がる古代遺跡を中心としたエリア。水系、ゴーレム系のまものが多い。
・機械の街と研究所(橙)
蒸気が立ち上るスチームパンク風の都市。キメラ系、機械系のまものが多い。
・死者の楽園(黒)
ハロウィンのような雰囲気が漂う、ゴシックなエリア。アンデッド系や伝承の怪物っぽいまものが多い。
・火山地帯(赤)
年中噴火を繰り返す火山に囲まれた過酷なエリア。強そうな奴系、ドラゴン系のまものが多い。
・魔王城
まおうの居城。現在代替わりの途中なので、まおうの側近以外は残っていない。
●属性について
まものはどれか一つの属性を持っています。対抗する属性にはダメージを与えやすいですが、その分ダメージも受けやすいです。反対に同じ属性の場合、与えるダメージも受けるダメージも少なくなります。
・赤(火)と青(水、氷)
・緑(風、自然)と橙(地、金属)
・白(光、雷)と黒(闇、毒)
●主要NPC
・『死者の女王』オフィーリア
まおう継承の混乱に乗じて、次期まおうの座を狙う野心家です。強力な死霊術士として死者を統率し、機械の街のまものも配下に加えています。魔王城の霊廟に安置された、魔王の死体を取り込もうと城に攻め込みます。
・『獄炎竜』ゲヘナ
かつて英雄と讃えられた勇ましき竜。しかし死病に侵された彼は、死者としての生と引き替えにオフィーリアの配下になりました。現在の外見は、所々に骨が見えるアンデッドの竜です。オフィーリアの命により世界樹の森に侵攻、世界樹を焼き払おうとしています。
世界樹の森にのみ生息する、レアまもの。まかいの魔力とも関わりがあるとも言われているが、至って人畜無害。かわいい。
※見た目は、なばた☆りえマスターのアイコンイラストです。→
●シナリオの舞台
『魔王城』と『世界樹の森』が舞台になります。どちらか一つを選んで行動してください(他のエリアは登場しません)
基本は魔王の座を狙うオフィーリアの軍勢に対抗する事になります。彼女の企みを阻止した場合、功績諸々から判断し、PCさんの中から次のまおうが選出される予定です。
・オフィーリアの軍勢と戦う(魔王城・黒、橙属性多め)
・ゲヘナの軍勢と戦う、世界樹や猫つちのこを守る(世界樹の森・赤、黒属性多め)
※オフィーリア側につく事も可能ですが、アクションの難易度は高めになりますのでご注意ください(やられ役になっても大丈夫、まおうに選ばれる可能性はゼロでも構わないと言う方ならぜひ)
●アクションについて
・必ず自分の『属性』と、『攻撃型』(『近』か『遠』のどちらか)を記入してください。これにより戦闘の相性が決まります。
・攻撃型は『近』の場合、前線で攻撃を受けやすいですが、望む相手の元へ斬り込みやすくなります。反対に『遠』の場合、後方で被害は抑えられますが、一対一の戦いに持ち込むのが難しくなります(狙った相手の元まで向かえなかったりなど)
●まもの設定について
PCさんのまものについての設定(外見、種族、性質、戦い方など)があればアクションに記入してください。
また、指定イラストに「まものイラスト」があれば、その外見を参考にさせてもらいます。コミュニティやコメントの書き込みは参照出来ませんのでご注意ください。
●まおうの設定について
鳳翔 皐月さんが参加された場合に限り、先代まおうについてコメントページにて設定出来ます。ただし「ぼんやりと覚えている」程度になりますので、全て採用出来る訳では無く、極端に有利になる設定などにはマスタリングが入ります。
※最初の参加申込み期限から、48時間以内の書き込みのみ有効です。
こちらからの連絡は以上になります。設定もろもろはあくまでこのシナリオ独自のものですので、普段と違うまものになりきって暴れてみて下さい。それではよろしくお願いします。