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魔王再臨～Komm, du süße Todesstunde
●Overture～The March of The Black Queen
まかいにあまねく満ちる、膨大な魔力――それに溶けてゆくのは偉大なるまおう。空と大地に降り注ぐ魔力の欠片によって、全てのまもの達がまおうの崩御を知る事となった。
――まおうの死、それは緩やかな忘却。彼の存在全てがまかいに溶けてゆくまで、まもの達は喪に服し、楽師たちは厳かな鎮魂歌を奏でて死出の旅を祝福する。
しかし、その忘却は不意に途絶えてしまっていた。如何なる異変が起きたのか――まおうは世界へ還る事無く、従って次代のまおうも生まれずに、ただ時だけが過ぎていく。
その機を狙い動き出したのは、死者の楽園に君臨する女王――無慈悲なるオフィーリア。獄炎竜ゲヘナを配下に加えた彼女は、己こそがまおうに相応しいと軍勢を率い、主亡き魔王城へと進軍を開始する。更には機械の街のまもの達すらも加え、死を恐れぬ兵団の数は膨れ上がっていったのだ――。
「……今の時間は５時２３分くらい。今の時間は５時２３分くらい」
くすんだモノクロームの街並みを、滑らかな金属の鳥が横切っていく。夜明けの光よりもなお眩い金色の翼を羽ばたかせ、空を舞うまものは薄野 五月。
「そろそろ夜が明けます。２４分になりました……太陽が昇るまで、あと１５７９秒」
人形の如き繊細な見目にそぐわぬ、力強い羽ばたきを繰り返す彼女は、今日も機械の街を飛び回って時を告げる。例えまおうが亡くなったとしても、時告げ鳥の役割は変わらない――澄んだ声で囀る五月であったが、しかし彼女の声を聞く者は其処に居なかった。
「どなたか、時間を訪ねてはくれないのですか。１５６３秒……もう、夜明けは間近です」
無数の配管が街を巡り、空に伸びる煙突は絶え間なく蒸気を吐き出しているものの――此処の区画に住まう機械兵たちは既に、死者の女王の軍勢に加わってしまったらしい。
「誰も時間を聞いてくれません。それは、とても――」
ふわりと戦の気配を孕んだ風が、機械少女のワンピースを揺らす。そうして五月は、暫し糸の切れた人形のように硬直していたが、不意に顔を上げてぐるりと首を巡らせた。
「とても、とても――面白くない」
――呟きと同時、分厚いレンズの奥の瞳が不吉な赤の光を放って。硝子のまなざしは真っ直ぐに、機械の街の彼方に広がる、あおあおとした世界樹の森を見つめていた。
――一方、夜明けを前にして斜陽の影に沈むのは、主を失った魔王城。僅かに残った側近のみが、静かにまおうを見送る中で、破滅の足音が着々と近づきつつあった。
まおう亡き今、せめて彼の存在と共に逝こうと覚悟を決めた者も中には居たが――この城を住処にする者、そして守護の役目を担う者たちは、最期まで戦おうと次々に剣を取る。
（嗚呼、嗚呼――……）
そんな中、外界の喧騒と切り離された魔王城の霊廟には、獅子目 悠月の高く澄んだ歌声が静かに木霊していた。
（……最早その声も、姿も思い出せはしないが）
一度は途絶えたまおうへの祈りが、彼によって厳かな詠唱となり紡がれていき――美貌の宮廷楽師はそのまま、高らかに第一楽章を歌い終える。
（彼と交わした一つの約束だけは、覚えている）
悠月が伏せていた瞳をゆっくりと開けば、柩の側に控える守人――鳳翔 皐月と視線が交わった。慌ただしさを増す城の中でも、彼女は迷いもせずに此処を守ると告げて、この城に踏み込む敵を悉く撃破するべく刀を握りしめている。
「……まおうとは、唯一無二なる絶対の支配者。私たちの上に座し、その威光を広められるお方」
――幕間に囁かれるのは、偉大な主を讃える皐月の聖句だ。循環により為される王の継承は、それ以外の手段で行われるなどあってはならぬこと――凍てついた声音に、確かな熱を宿してきっぱりと告げた皐月は、守人としての使命を果たすのみと頷き立ち上がった。
「仕事をこなすのは、俺も同じだ。……その為には、雑音の排除が必要だな」
朗々と歌うように唱和した悠月の手には、いつしか華麗な細工の施された細剣が煌めいていて。そして皐月は、まるで戯曲を演じるが如く優雅に――且つ高らかに、戦の始まりを宣言する。
「再びまおう様が現れるその時まで、害する者はすべからく、私の敵。さあ、まおうに従う者たちよ。暴虐に憤る者たちよ。野蛮なる者に教えるのです」
そう――逆賊には制裁を、反逆には鉄槌を。目には目を、毒には毒を。世は全て事も無し。王たる者のためならば、何事も行うは容易い。
「……死さえ超越する、恐怖を」
まかいにあまねく満ちる、膨大な魔力――それに溶けてゆくのは偉大なるまおう。空と大地に降り注ぐ魔力の欠片によって、全てのまもの達がまおうの崩御を知る事となった。
――まおうの死、それは緩やかな忘却。彼の存在全てがまかいに溶けてゆくまで、まもの達は喪に服し、楽師たちは厳かな鎮魂歌を奏でて死出の旅を祝福する。
しかし、その忘却は不意に途絶えてしまっていた。如何なる異変が起きたのか――まおうは世界へ還る事無く、従って次代のまおうも生まれずに、ただ時だけが過ぎていく。
その機を狙い動き出したのは、死者の楽園に君臨する女王――無慈悲なるオフィーリア。獄炎竜ゲヘナを配下に加えた彼女は、己こそがまおうに相応しいと軍勢を率い、主亡き魔王城へと進軍を開始する。更には機械の街のまもの達すらも加え、死を恐れぬ兵団の数は膨れ上がっていったのだ――。
「……今の時間は５時２３分くらい。今の時間は５時２３分くらい」
くすんだモノクロームの街並みを、滑らかな金属の鳥が横切っていく。夜明けの光よりもなお眩い金色の翼を羽ばたかせ、空を舞うまものは薄野 五月。
「そろそろ夜が明けます。２４分になりました……太陽が昇るまで、あと１５７９秒」
人形の如き繊細な見目にそぐわぬ、力強い羽ばたきを繰り返す彼女は、今日も機械の街を飛び回って時を告げる。例えまおうが亡くなったとしても、時告げ鳥の役割は変わらない――澄んだ声で囀る五月であったが、しかし彼女の声を聞く者は其処に居なかった。
「どなたか、時間を訪ねてはくれないのですか。１５６３秒……もう、夜明けは間近です」
無数の配管が街を巡り、空に伸びる煙突は絶え間なく蒸気を吐き出しているものの――此処の区画に住まう機械兵たちは既に、死者の女王の軍勢に加わってしまったらしい。
「誰も時間を聞いてくれません。それは、とても――」
ふわりと戦の気配を孕んだ風が、機械少女のワンピースを揺らす。そうして五月は、暫し糸の切れた人形のように硬直していたが、不意に顔を上げてぐるりと首を巡らせた。
「とても、とても――面白くない」
――呟きと同時、分厚いレンズの奥の瞳が不吉な赤の光を放って。硝子のまなざしは真っ直ぐに、機械の街の彼方に広がる、あおあおとした世界樹の森を見つめていた。
――一方、夜明けを前にして斜陽の影に沈むのは、主を失った魔王城。僅かに残った側近のみが、静かにまおうを見送る中で、破滅の足音が着々と近づきつつあった。
まおう亡き今、せめて彼の存在と共に逝こうと覚悟を決めた者も中には居たが――この城を住処にする者、そして守護の役目を担う者たちは、最期まで戦おうと次々に剣を取る。
（嗚呼、嗚呼――……）
そんな中、外界の喧騒と切り離された魔王城の霊廟には、獅子目 悠月の高く澄んだ歌声が静かに木霊していた。
（……最早その声も、姿も思い出せはしないが）
一度は途絶えたまおうへの祈りが、彼によって厳かな詠唱となり紡がれていき――美貌の宮廷楽師はそのまま、高らかに第一楽章を歌い終える。
（彼と交わした一つの約束だけは、覚えている）
悠月が伏せていた瞳をゆっくりと開けば、柩の側に控える守人――鳳翔 皐月と視線が交わった。慌ただしさを増す城の中でも、彼女は迷いもせずに此処を守ると告げて、この城に踏み込む敵を悉く撃破するべく刀を握りしめている。
「……まおうとは、唯一無二なる絶対の支配者。私たちの上に座し、その威光を広められるお方」
――幕間に囁かれるのは、偉大な主を讃える皐月の聖句だ。循環により為される王の継承は、それ以外の手段で行われるなどあってはならぬこと――凍てついた声音に、確かな熱を宿してきっぱりと告げた皐月は、守人としての使命を果たすのみと頷き立ち上がった。
「仕事をこなすのは、俺も同じだ。……その為には、雑音の排除が必要だな」
朗々と歌うように唱和した悠月の手には、いつしか華麗な細工の施された細剣が煌めいていて。そして皐月は、まるで戯曲を演じるが如く優雅に――且つ高らかに、戦の始まりを宣言する。
「再びまおう様が現れるその時まで、害する者はすべからく、私の敵。さあ、まおうに従う者たちよ。暴虐に憤る者たちよ。野蛮なる者に教えるのです」
そう――逆賊には制裁を、反逆には鉄槌を。目には目を、毒には毒を。世は全て事も無し。王たる者のためならば、何事も行うは容易い。
「……死さえ超越する、恐怖を」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2017年08月12日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年08月19日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2017年08月19日 11時00分
