さくら、ふたたび｜リアクション

さくら、ふたたび

　水鉄砲を持ったさくらねこ星人が前方から走ってくる。物陰に隠れていた狗民きとりは、その地球外生命体が武器の射程に入った瞬間に飛び出して銃を乱射した。
「に゛ゃ゛！？」
　驚愕の声を発して、さくらねこ星人は消えていった。
「やった！　またいぬみんの勝ちだよー！」
　きとりはラッパ型の銃を持っていた。絵の具の射程がかなり短い、超接近型の銃だ。さくらねこ星人の筆も同じくらい射程が短く、正面からさくらねこ星人を倒しに行くと互角になるが、筆の方が振り幅が大きい為にこっちの方が少し不利だ。実際に使ってみて、この武器は直接対決を挑むのではなく不意打ちに適しているということがわかった。
「みみみん、さくらねこ星人よりいぬみん星人の方が強いんだよー！」
　ちきゅうはいぬみん星人が先に住み始めたのだ。
「まずはいぬみんに話を通してもらおうかー」
　ラッパの広がっている部分を上に向けて勝利のポーズを取る。そして、さくらねこ星人の塗った壁を塗り直していく。
「あれ？」
　何気なく緑色に塗っていただけだったのだが、模様のようになっている壁を見てきとりはぴん、と閃くのを感じた。
「なんかいい感じに木が増えた感じしない？」
　さくら色の中に縦に塗られた緑色が幹の役割を果たし、桜の木が壁に現れたような気がした。
　さくら色ときとりの緑色があれば、この桜をもっともっと増やせる。
　そう思ったらわくわくしてきて、きとりは今度は話しかける為にさくらねこ星人を探し始めた。
　最初に空間が切り取られた時よりも随分と数は減っているが、街を少し歩けばすぐに見つかるくらいにはまだまだいる。強制帰還した数の分だけ効率が悪くなったからか、さくらねこ星人は街を塗るのに夢中になっているらしい。一心不乱に絵の具を塗っている１体に、きとりは話しかけた。さくらねこ星人からは侵略の意志があんまり感じられないし、話せばもしかしたらわかってくれる？　かも？　と思ったのだ。
「さくらねこさんー」
「に゛ゃ゛っ゛！？」
　声をかけられるとは夢にも思っていなかったのか、さくらねこ星人は飛び上がって驚いた。
「い、いぬみん星人先輩！　勘弁してくださいに゛ゃ゛！」
「勘弁してあげるよー！　いぬみん星人とさくらねこ星人の共通の目的が浮かび上がってきたからねー！」
「きょ、共通の目的ですに゛ゃ゛？」
　さくらねこ星人はいぬみん星人に恐れをなしているらしい。何かびくびくしている上に、突然フレンドリーに話しかけられて混乱しているようでもある。
　とりあえず、会話は可能そうだ。
「うん、いぬみんはアーティストで、時折まちなかをバルーンアートやその他イラストで埋め尽くしたくなる事があるんだ。だから、さくらねこさんたちは、もしかするといぬみんたちと共存できるのかもしれません！」
「そ、それは、つまり……もう攻撃してこないに゛ゃ゛？　一緒にさくらを増やしてくれるに゛ゃ゛？」
「そうだよ！」
「に゛ゃ゛っ゛！！」
　さくらねこ星人はぱあっと表情を輝かせた。安心と、理解者を得たことの嬉しさで溢れている。
「だってこんなにもきれいな桜色で、こんなにもきれいな緑色なんだもの。合わせて使ったら、もっともっときれいになるじゃない？　二つの星で、この星をもっときれいにしてあげようよ！」
　弾んだ声できとりが誘うと、さくらねこ星人は「に゛ゃ゛！」と言って壁を勢いよく塗り始めた。一気にさくら色になった壁に、きとりが緑色で幹や葉などのアクセントをつけていく。
　二種族での共同作業が始まった。