さくら、ふたたび｜リアクション

さくら、ふたたび

「あそこに゛ゃ゛」
　月詠が案内された先では、狗民きとりがさくらねこ星人と仲良く壁に絵を描いていた。中々にユニークで、芸術性の高い絵だ。月詠は彼女たちに近づいていった。

（勢いで意気投合して一緒になって街を染めてるけど、もしかするとこれって皆と戦うことになるんじゃ？）
　きとりはラッパ型の銃を使いながら、ふとそんなことを考えた。さくらねこ星人を止めないといけないのに、その逆の行動をしているのだ。
「ちょっといいか？」
　女の子の声がして振り向くと、巨大な筆を持った月詠が立っていた。
「！！　はわー！　いぬみん、わるいうちゅうじんじゃないよー！」
　反射的に逃げると、その先にいたさくらねこ星人に襟首を掴まれた。「！？　さくらねこ星人とも戦わないよー！！」
「戦う気はないに゛ゃ゛」
「へ？」
　月詠が、きとりと絵を描いていたさくらねこ星人と並んで歩いてくる。
「一緒に作品を作らないか」

　――寝子島高校の校庭に、さくら色と緑色で絵が描かれていく。月詠ときとりとさくらねこ星人２体の他に、工事現場の仮囲い板を塗っていた御巫時子と八神修、風羽と檎郎、たくさんのさくらねこ星人も一緒だった。
　それなりに好き勝手に描いている筈なのに、それはひとつの絵になりつつあった――
「……綺麗な桜ですね～」
　夕方になり、陽の光が朱色になるまであと少しという時間。
　校庭に絵を描いた全員は、寝子高の屋上に立ってグラウンドを眺めていた。風羽が言う通り、そこに描かれたものはオーソドックスな桜とはちょっと違うのに、どこからどう見ても桜で、弁当を広げてのんびり観賞したくなるような桜だった。
「中々、良い絵に仕上がったな。筆以外にも銃とか、絵を描きにくい武器もあったのに」
「チームワークが成した結果ですね」
　修と時子が感想を述べ合う。
「三つの星の力で、校庭がアートで埋め尽くされたね！」
　きとりも地球といぬみん星とさくらねこ星の宇宙間交流の成功を喜んでいた。
「二色でも味があるだろう？」
「「「「「「「「「に゛ゃ゛っ゛！　に゛ゃ゛っ゛！　に゛ゃ゛っ゛！」」」」」」」」」
　月詠の言葉に、さくらねこ星人たちがおおはしゃぎする。
「桜色の景色を残す技術があると言っただろう。こうして残すことが可能だ。満足したなら星に帰るといい」
「に゛ゃ゛？」
　さくらねこ星人は仲間とはしゃぐのを止めて月詠を見た。皆、同じ姿形をしているのに、一番最初に声をかけたのがどの星人かはっきりとわかった。
『に゛ゃ゛……』
　さくらねこ星人たちはもう一度校庭に目を落とした。そして、皆で頷き合ってからさくらねこ星人の着ぐるみ――檎郎を見る。彼は、修にろっこんとは何ぞやというレクチャーを受けていた。
「いいに゛ゃ゛？」
「いいも何も、もう結論は出てるじゃないか。帰りたい時が帰り時だと思うぜ」
『……に゛ゃ゛！』
　さくらねこ星人たちは横一列に並び、笑顔で地球から消えていった。
「消えても、さくらねこ星人さんの想いは残ると思います」
　時子が、彼らの消えた場所を見ながら優しく言う。個人のろっこんの暴走で生まれたさくらねこ星人が、本当に宇宙の母星に戻ったのかどうかはわからない。だが「どちら」の可能性が高いかと考えたら――
　誰もが黙ったままだったが、時子の言葉を否定的に考えている者はいないような気がした。屋上の空気が、柔らかい。
　屋上に唯一残った、宇宙人ではないさくらねこ星人を見る。
（……きっと檎郎さんが着ぐるみを着て受け継いでくれるはずです）

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