壁画通りを作ろう｜リアクション

壁画通りを作ろう

●苦戦する落書き消し

「落書きは欠片も残したくねぇ。万一染みが残れば、壁や上に描かれる壁画に悪影響及ぼさねぇとも限らん」
　壁画を作る人達に綺麗になった壁に絵を描いてほしいと思う曖浜鴻は、丁寧に落書きを消していく。
（猫って、柑橘類の匂い苦手な奴が多いよな……？）
　オレンジ油の落とし液はオレンジの香りがするので、猫が苦手な柑橘類の匂いが。
　そのせいか、路地には鼻が悪くて匂いを嗅ぐことができないと思われる猫しかいない。
「悪いな。作業中……できれば壁画が乾くまで壁に近寄らないでくれると助かるんだが」
　壁に近づこうとする猫がいたので、鴻はしゃがみ、通じるかどうかわからないが話しかける。
　近づいてはいけない雰囲気を察したのか、猫達は路地から去っていった。
「助かったぜ。液がついた手で触れたくねぇからな」
　
　目に見える範囲はあらかた消えたが、念のため高台や物陰にも落書きがないかチェック。
「こんなところにまで……どうやって描いたんだ？」
　脚立を使って描いたか、長身の犯人が描いたのか高台にも落書きが。
　身長１９２センチの鴻が、つま先立ちしてやっと見えるような場所に描かれていたのには驚いた。
「こんなところにまで？　どうやって描いたの？」
　羽生碧南も実際に見て驚く。
　高い場所に液を染み込ませる、ブラシで擦って落とすにしても脚立や梯子を使わないと長身のふたりでも作業困難だ。
「高いところにまで描いてあるのか？」
　見えにくいので、どの程度なのか御剣刀にはどのようなものが描かれているのかわからない。
「その労力、落書きでなく地域の美化に使えばいいものを」
　八神修は、高い位置に落書きをするのなら寝子島を綺麗にすればいいのにと呆れた。
　この一件で、落書きを消す有志一同は落書き犯に怒りをおぼえると同時に、綺麗にしようという意思が強くなった。
「高い場所は俺と羽生がやる。あんたらは他を頼む」
「ここは私達に任せて」
　脚立を持ってきた碧南と梯子を用意した鴻は、液と刷毛を持ち、高い場所の落書きに染み込ませた。

　落とし液や剥離剤をかけ、汚れが浮いた落書きは刀がデッキブラシとタワシで全力で擦っている。
「おりゃー！！」
　力いっぱい擦るが、結構しっかり描いてあるのでなかなか落ちない。
「くそっ……だが汚れは許さん！」
　頑固な汚れには自然と気合が入るので、デッキブラシで擦る力が増している。
「力任せでやっても落ちないぞ。これの出番だ」
　下がっていろ、と声をかけると、修は高圧洗浄機を一気に噴射。
　擦っても落ちない落書きが綺麗になるのは、見ていてとても楽しくなった修は、高圧洗浄機を使いたい欲求に駆られた。
「落書きバスターズになった気分だ。御剣もやるか？」
「面白そうだ。俺にもやらせてくれ」
　交代だ、と修は高圧洗浄機を刀に手渡す。
「綺麗に落とせるんだな、これ」
　みるみるうちに汚れが落ちるのは気分がいい。洗い流した後は、タワシで念入りに落としていく。

　刀が消した箇所はあたかた綺麗になったので、綺麗になった壁を眺め、満足感に浸る。
　だが、落書きはまだまだたくさんある。
　前を向き、壁に向かってデッキブラシを構えて更なる落書き消しに燃える。
「まだまだたくさんあるぞ、どんどん綺麗にしよう！」