【新入生歓迎会】ピュアも猛者もまとめてエンジョイ新歓祭！｜リアクション

【新入生歓迎会】ピュアも猛者もまとめてエンジョイ新歓祭！

■舞台の外では

　時に撮影班用の席から、時に観客席の合間を縫うように移動して的確な角度で。
　椿美咲紀はデジカメ片手に、全てのパフォーマンスたちを熱く撮り溜めている最中である。
　伊達に日頃、寝子高新聞部として取材をしたり写真を撮ったりしていない。デジカメで撮った直後に、今撮った写真の内容説明と出演者やあらすじを即座にメモしておき。
　パフォーマンスの終わりには、それを見た客席の反応もしっかりと。

「ぬぬぬ……さっきのブレイクダンスは、それぞれ技名あるならちゃんと聞いておきましょう。
　飛び入りされた理由なども、次回の新歓祭への励みになるかもですね！」

　どんなパフォ―マスでも、記事を読んでくれた人が少しでも身近に感じるように。
　美咲紀は舞台上の演技を見るたびに、アピールポイントは何だろう、一番楽しく感じるところはどこだろうと真剣に考える。
　時に真剣に見つめ過ぎて演技の深くにハマり、気付けば純粋に楽しんだ後『はうあ！？』と慌ててメモを取る姿もあったとか。

　◇　◇　◇

「はい、みんな下にフラの衣装着てよー
　最後は何の脈絡もなくインド映画のようにフラを踊るのよー」

　さて遡ること数時間前。まだ講堂内設営準備中な早い時間。
　着替えやら最後の練習やらの為に借りた空き教室に、ミミ・アハユルのパンパンッという手打ち音が響いていた。

「衣装って、これ女もんじゃん、笑える。
　見ろよ響、この胸んとこボールが二つ入るぜ、受けるー」
「高杉……おまえ、順応力ありすぎるぞ……」
「もうっ、ソルトは往生際がわるいわねー。女ものの方がかわいいでしょ。脱げこら」
「脱がそうとすんな！」

　なんかモコモコした服の下に、言われたままに衣装付けた高杉かようが、野球のボールじゃ重くて落ちるよな、テニスボール？　とかとかすでに楽しそうにしているのを横目で見て。
　響蒼留人は頭痛そうにどんよりしていた。
　――　おかしい、どうしてこうなった……。
　確かに姉の手掛けた、男同士が全力で怪しい雰囲気の下戯れるような脚本劇に出されるよりマシだっ、とこちらの誘いに応じたわけだが。
　練習段階で気付き始めた。
　実はそれ以上にこのフラミュージカルなるものはエライことになっているのでは……？　と。
　しかし時すでに遅し。本番まであと僅かなのである。

「それにしても……マーガレットのこの台本、すげぇよな（いろんな意味で）」
「'Oia no*☆　即興にしてはいい台本じゃない？　マハロ泣ける」
「どうしてもと頼まれたら、さすがに無碍にはできませんわ。仕方なくです」

　ツンとそっぽを向いたマーガレット・ライカーだが、褒められてイヤな気などするはずなく。
　実際、普段こっそり小説を書いたりしているだけに、お芝居の脚本を書くのも意外と楽しかった。
　うっかり、いつも書いているような内容に転びそうになるのを、ハッと正気になりながら真面目に試行錯誤するほどには。
　つまりマーガレットに他意はないのだ。
　……蒼留人の目には、とんだ内容に映っていたとて。きっと、多分、無いはず。
　かようの方は素朴な疑問として、思わず口にする。

「しかし、よ。響が主役はいいとして……マーガレット（の役）にフラれる、って。
　フラミュージカルの『フラ』ってそのフラなの？　マジで？」
「掛詞ととって頂いても構いませんわ」
「んで、マーガレットは響をフッて……犬選ぶの？　マーガレット、ケモナーなの？」
「………なにか脚本に文句でもおありですか、高杉さん」
「滅相も無い。役者としてがんばります」

　陶器のように麗しく端正な顔立ちだけに、ニラまれるとド迫力。
　かよう、マーガレットのひと睨みであっさり良い返事である。
　――　まぁ役とはいえ、美人さんに好かれるのはちょっと気分いいが……。
　チラッとその白銀のような髪がかかる横顔を見て、そんな内心なかようも居たり。

「流されやすいコで助かるわー、かよう。
　それにしてもマーガレットは、スタイルいいし衣装も映えるよねー羨ましい」
「私は、ミミさんのくびれが羨ましいですわ……」

　フラやサーフィンで鍛えらえ無駄な脂肪の無いその体を見つめ、疲れるのが嫌と避けてばかりいてはいけないのは分かってるんですが……とろくに運動をしない自分へと小さく溜息つきながら。

「この衣装はミミさんが用意してくれたのですよね」
「サーフィン部から借りてきたわよー」
「そのウクレレも？」
「これは自前♪　ＢＧＭお任せオッケーよん。
　みんなの演技に合わせるから好きに動いてちょーだい」

　ポローン♪　と音を鳴らしながら、各々が着替えを済ませたのを確認するミミ。

「ほら、残り時間で男子はファイヤーダンスとバンブーダンスも教えるわよー」
「え？　俺そしたら四つん這いで踊るの？」
「劇が盛り上がった頃、ほぼフィナーレで踊るだろうから、立ってダイジョウブー」

　この上まだ覚えさせるのかっ？　と驚く蒼留人だったが、スパルタされればついつい頑張ってしまうのはスポーツ少年のサガだろうか。

「出番までまだあるし、ふりつけちゃーんと覚えね。
　ほらそこー。腰もっと綺麗に使え。下半身にモノサシでも入ってんの？
　もっとこう、やわらかく、力強く、愛を込めてー！」

　ギロリと睨みながら、故郷のダンスとあって指導にも熱が入るミミであった。

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