■「トップで登場するは、『しんかんにゃんず』！」

　拍手に迎えられれば体育用マットを転がし転がし。
　恵御納 夏朝、遠野 まほろ、野々 ののこ他新入生たちが、にゃーっ♪　と全員で登場！
　各々が被るは、パジャマをアレンジしたそれぞれの個性が出た着ぐるみ猫衣装。
　黒猫、白猫、キジ、トラ、アメショ。
　――　わっ、凝ってて可愛いなぁ。正面から見れないのがちょっと残念。
　音響スタッフとして舞台を見つめる鴻上 彰尋が、タイミングよく音楽をスタートさせた。

　♪ダンスィン　にゃんすぃん　ごろごろにゃー♪

　可愛らしい猫な曲に合わせ、猫ダンスが繰り広げられる。
　呼吸合わせつつも個性は忘れずに！
　１年生たちの子猫思わせるにゃんにゃかじゃれ合いは初々しく。
　ののこにゃんこは、元気いっぱいにクルクル回ってハイ♪　招き猫ポーズ！
　夏朝にゃんこはころころマット広げれば、前転、側転、後転で戻ってあれれ？　ちょっと目が回っちゃったへろりーんにゃん☆
　まほろにゃんこは、足元照らし動き回るスポットライトをにゃうにゃう♪　追いかけっこ。
　誰かが思わず転んじゃったりしたら、夏朝にゃんこがすりすり、まほろにゃんこが顔洗い。
　気にしなーい、気にしなーい。
　にゃんこが顔を洗っても、今日の天気は猫晴れにゃ！

　――　わ。息がぴったり合っていて凄いな。相当、練習したっぽい？
　佐藤 英二は舞台上で跳ねたり転がったりしているにゃんこーずに、目が釘付けである。
　新入生たちも、緊張を振り払って笑顔で踊っている様子が伝わって来て自然と表情が綻んだ。
　とりわけ、とある一匹のにゃんこの動きには特に。
　――　野々さんの元気な姿見てると、嬉しい気持ちになって癒されるなぁ。

　にゃんこたち、最後は密かに布を被せ舞台後方に置いておいた段ボールから、布をばさぁっと取り去って。
　全員でせーの！　と各自が用意した物を掲げ上げた。
　趣味のコレクションや大事な物など、色とりどりなものを見せる新入生にゃんこーズを始め、サンマさんストラップとサンマさんキーホルダーを両手でじゃーん☆　と持つののこにゃんこ。
　この日の為の新作ねこぬいぐるみをぎゅっと抱くまほろにゃんこ。
　本当は直前まで、青い目のウサギさんぬいぐるみにしようと思っていたけれど。
　――　ちょっと……うん、なんだか恥ずかしくなっちゃう、気がしたから……。
　結局、ほぼ一日で新作を作り上げていたとか。青い目のウサギさんは、お家でアンゴラウサギさんと仲良くお留守番。
　夏朝にゃんこが、パペットぬいぐるみなハルくんを掲げ。

「せーのっ、今年も一年よろしく、にゃーっ！！」

　しんかんにゃんず一同、息ピッタリに叫んでお辞儀した。
　あまりの可愛く愛らしいダンスに、悶え叫びそうになるのを必死に堪えていたらしい生徒会長、ここぞとばかりに盛大な拍手。
　すぐに観客席から一斉に大きな歓声と拍手も湧き起った。
　その頑張りに英二も惜しみない拍手を送る。
　……あとで感想を伝えたいな……。次の出し物に集中する直前、ふとそんな思いがよぎる英二だった。

　無事終えて袖にハケた皆へと、夏朝は改めて労いお礼を述べる。

「今日、こうして一緒してくれて、本当にありがとう！」
「誘ってもらって嬉しかったよー！　去年の夏朝ちゃんの見てたから、やりたいなって思ってたんだ～♪」

　ののこの言葉に、ホッと安堵の色が夏朝に浮かんだ。

「私も、今年度からはいろいろ……積極的に参加したいなって思ってたから。ありがとう」
「遠野さん……」

　にこっと微笑み合えば自然と、まほろと夏朝は握手した。
　私も私もー！　とはしゃいだののこに流されるようにして、新入生たちも心から嬉しそうに仲間たちと握手し合う。

「皆が楽しかったなら、僕も嬉しい……皆、本当にありがとう！」
「見ている人たちに、和んでもらえたかな？」
「みーんな笑顔だったよぉ！」

　小首傾げたまほろにののこが自信たっぷりに答えていた。
　このまま皆で一緒に、他の出し物見ようか♪　なんて、しんかんにゃんずは和気あいあいと出番を終えた。

　◇　◇　◇

　――　……あちゃ～、案の定、新歓祭始まっちゃってるっぽいー？。
　丁度拍手が鳴り終わって、司会者が感想を述べている最中に、風見鶏 スグリは恐る恐る講堂入口の扉から、隙間を開けて覗き込んでいた。
　どうしよ。さぼっちゃうのもできそうだけれども。
　しかし講堂内は活気に溢れている。出し物を見ている皆が興奮冷めず感想を言い合っているのを見れば、スグリの入口扉持つ手に次第に力がこもっていく。
　ワヤワヤ楽しそうな雰囲気がぽわぽわ感じるしぃ
　見てーなーお祭りー超見てーな～～。
　気付けばそそくさと入口通り、身を低くして新入生席へと移動を開始。
　――　お、なんかこれ、スニーキングミッションみてーでワクワク。
　先生に見つからないよう、上着をすっぽり被って。
　そーっとそーっと……音を立てないように～……

「……風見鶏君……？」
「アッハイ」

　自クラスらしき集団へと近寄ったあたりで、あっさりと担任である島岡 雪乃に見つかった。

「見かけないから心配していたんですよ？」
「あ～……エットー」

　どう説明しよー……、とスグリが言葉を続けようとしたその時、背後から明るい声が飛ぶ。

「新入生にしてもう遅刻かぁ。いい根性してるねぇ、将来有望なのかな？　外周いっとく？」
「あ……ブラックウッド先生」
「ヒィィ、センセイずびまぜん！」

　声は明るくとも冷ややかな冷気を感じた気がした。
　３年生担任だが風紀委員担当でもあるウォルター・B先生、チョークが無くて残念そうに指で素振りしながらさらりと会話に加わった。
　顔面についた無数の傷跡が、スグリの人相を一層怪しくさせているらしく（※金網に顔から突っ込んでもたれていた故の、タダの金網模様）、ウォルター教諭の口は微笑んでいるものの眼光は大変鋭い。

「怪しい者じゃないデスっ、遅刻してごめんなさいッ。
　隅っこで正座してますからお祭り見させて下さい！！」
「おや。素直なコだった」
「あの、えっと、反省しているようなので、今回は……」
「そうだねぇ。まーいいでしょう。キミたち新入生が今日は主役なわけだし、ね」
「ありがとうございます！　島岡先生も、援護どうもデス！」
「次からは気を付けて下さい、ね」

　島岡先生の、ぽわわ～んとした表情にようやく緊張を解いて息をぷはぁっと吐くのだった。