眠猫島夢対戦　絶島バトルロワイヤル｜リアクション

眠猫島夢対戦　絶島バトルロワイヤル

■蝶のように舞え
　空を蝶が飛んでいく。
　事情を知らぬ者ならば、これをただの風景としてとらえるだろう。
　しかし屋敷野梢という人物像とその能力を知っているなら、これを厄介な状況だと判断できたはずだ。観測できたならの話だが。
　蝶はふわふわと建物の中へ入り込むと、物陰に隠れて人間の姿……もとい梢本来の状態へと戻った。
「ふう、思わぬ戦利品が手に入っちゃいましたねえ。このくらいあれば、サドンデス状態になっても生き延びられるでしょう」
　梢の作戦は星ヶ丘に潜んで制限時間ギリギリまで待ち、最後の勝利をかっさらうという作戦である。そうなれば相手も十分すぎる装備を獲得している可能性があるので、ある程度装備の選択はできるようにはしておかねばならない。
　いざとなったら能力を駆使して切り抜けるつもりなので、あくまで保険だ。
「拳銃に小銃に狙撃銃。これだけあれば戦闘には事欠かないでしょう。あとは制限時間が迫るのを待つのみ」
　と、思った所で。
　潜伏していた建物の扉が開いた。

　相手の姿は見えない。
　蝶になって回り込んで確認してもいいが、相手の能力によってはそれ自体が命取りになりかねない。
　風にのって飛べる蝶はいざとなれば相当な速度で飛べるが、グレネードが投げ込まれた室内から上手に逃げるには少々心細い。被弾によるダメージを考えれば、むしろ人間状態でいたほうが安全なくらいだ。
　――と思っていたら早速手榴弾が投げ込まれた。
　それもピンポイントで梢のいる部屋である。
「まったまった！」
　梢は飛んできた手榴弾を蝶に変えると、素早く窓を破壊して外へと飛び出す。
　コンマ五秒遅れて室内で爆発。
　蝶化能力を使って爆破のタイミングを遅らせたのだ。
　銃をとって窓から内側に向ける。
　が、部屋に踏み込む様子はない。
　ブラフか？
　相手の能力はなんだ？　そもそも能力持ちか？
　考えていても仕方ない。
　目には目を。歯には歯を、ブラフにはブラフだ。
「おっと、私がソロだといつから思ってました？」
　離れた場所の少し大きめの物体を蝶に変えて飛ばし、解除。
　がたんと落ちた物体に示す反応を確かめるべく注目――していた彼女の背後から、誰かがヌッと姿を現わした。
「おっとお！？」
　梢は即座に蝶にチェンジ。
　至近距離で銃撃を浴びせて倒そうとするなら、これ以上有効な回避方法はない。
　点であり直線の攻撃である銃撃は、小さくてふわふわ浮いている対象には非常に相性が悪いのだ。
　ただでさえ人間に当てることが難しく、だからこそここまで近くに寄ってきたのだ。そこで急に対象が手のひらサイズになったとあれば銃撃など――。
　と、視点を転換して固まった。
　相手は。
　椎井莉鳥であった。
　彼女の指先に、激しい電流が流れた。

　稲妻の原理を説明するまでもなく、梢は莉鳥の電撃によって激しいショックを受けてリタイアした。
　その場に転がったいくつかの武器を、莉鳥は一つ一つ拾い上げた。
「随分用意が良かったのね。一歩間違えればやられたのはこっちだったわ」
　などと言いながら、莉鳥はスナイパーライフルを捨てた。彼女にとって、小回りが利かず音のうるさい狙撃銃はお荷物なのだ。
　残った中から拳銃をジーパンの腰にねじ込むように保持し、アサルトライフルをとる。
　連射のきく小銃。静かに敵を倒せる電撃。いざというときの拳銃。
　バランスはこれで完璧だ。
　これで多少の危機は乗り越えられる。ガチの兵隊でも出てこないことには、ごり押しで勝つことも出来るだろう。
　そうこうしていると……。
「そろそろこの場所もダメね」
　手に入れて置いた大雑把な地図を広げる。現在島内放送で告知されている制限エリアは、ついに星ヶ丘の半分を下回りつつあった。
　いよいよ、このバトルロワイヤルに決着がつこうとしているのだ。

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