せんせいといっしょ：川添先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：川添先生編

「かおるちゃんセンセ、ジャージ着てても真央ちゃんは男装の麗人になれないのだ、どうしたらセンセみたいな男装の麗人になれるのだ？」
「ん～、男装の麗人かぁ。僕がそうかはともかく、あれだね、某塚歌劇団さん的な感じでキラキラした衣装きてみるとかはどうかなぁ～？　ジャージはそういう意味ではちょっと地味かもねぇ」
　人気者状態になっている川添先生の横で、シュタっと手をあげて質問した真央。
　思ったままにこたえると、川添先生は「僕にも抱かせてね」と言って、ひょい、とがおーを抱き上げて撫で繰り回しはじめ、「やぁかわいいなぁ、君は」とあいさつをして見せる。

「がおーも撫でられて喜んでるのだ♪」
「そうなのかい？　この子はいつも連れてきてるの？」
「そうでもあるしそうでもないのだ！　がおーは真央ちゃんのろっこんなのだ♪　よんだら来てくれる頭がよくて可愛い子なのだ！」
　えっへん、と胸をはる真央の言葉に、少しだけ川添先生が首をかしげた。
「ろっこん？」

「せ～んせ！」

　耳慣れぬ響きへの疑問と同時に声をかけてきたのは、響タルトだった。
　川添先生にとっては、担任するクラスの生徒でもある。
「先生って女子にモテるでしょう？　告白されたことある？」
　そう言って川添先生の横にいたタルトは、上半身を少し傾げるようにして川添先生の顔を覗き込むと、すぐに、にゃは、と笑顔を浮かべて付け加えた。
「あ、僕が告白するつもりじゃないから大丈夫だよ」

　そんなタルトにとって、イケメンで僕っ娘とか最高だよね！　という素晴らしい意気込みを込めて、本日の彫刻の授業には挑んでいたわけで。
　それは、この前猫になってた時に泉に落ちていた際、助けられた経験からくる好意も多分に関係してはいるのだろう。「創作のヒントにしたいと思いまして」と付け加え、いい笑顔を浮かべたタルトの表情には、川添先生は小さく笑って応じた。

「創作？　今日のかな？」
　んー、それもあるようなそうでもないような。
　謎の呟きをするタルトには少し首をかしげたものの、かおるは少し遠くなった過去を頑張って思い起こそうとする。

「告白……ううん、されたことはない、と思ってるんだけどねぇ。僕はよく友人から鈍いだのなんだの言われるから、自信はないなぁ」
「うわぁ、それは絶対されてそう！　僕もっと先生の学生時代の頃の寝子高の話聞いてみたいな」
「僕も、気になる……。先生が学生だった頃の寝子高、どんな所だったんだろう？」
　たまたま横にいた恵御納夏朝がタルトの問いに追随すると、
「その辺りは俺も気になりますね」
　と八神修も声をかけてきた。

「あ、どうも2年1組の八神です。それで……先生の学生時代って、どんなだったんですか？」
　ん、よろしくね八神君――そう言いながらまたかおるは高校時代ねぇ、と思い起こす。
　基本的に創作活動に没頭していたので、作品のことは覚えていても学校がどうだったかと言われると……そう思い返して、最近の思い出に行き当たる。

「シトラスガムダン」

「「「あぁ……」」」
　三人ほどの声が重なった。
「やっぱり長かったんですね」
「まぁそんな感じだよねぇ」
「じゃあもうあれはしょうがないんだね」
「ないんだよ」

　主体不明の謎の合意が、一団に不思議な一体感を抱かせていたり、その瞬間に校舎のどこかで誰かがくしゃみをしていたりしたらしいが――それはそれ、別の話というものだろう。
　そんな感じで雑談を交わしっつ、ちらほらと材料を拾うものもいる中で、一行は普段の数倍の時間をかけて、ゆるゆると海岸に進出するのであった。