せんせいといっしょ：川添先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：川添先生編

「やべぇのだ男装の麗人なうなのだ～」
　召喚三毛デブ猫を頭に載せたまま、ガン見している後木真央。
「あはは。僕を見るのもいいけど、材料もしっかり探しておきなねぇ」
　そんな視線も特段気に留める風情がないのが、川添かおるという人物だった。
　顔近くにあるぶさいくな寝顔の猫の顎をちょいちょい撫でながら笑って対応しているし、「しまったのだ、コレ授業だったのだ」と衝撃を受ける生徒にも大して動じる気配はない。
　そんな彼女の周りには、材料集めは二の次よ、といわんばかりに質問攻めにしている生徒達が数名ほど。

「先生、その来ているジャージって、年季入ってますけど学生時代からのものなんですか？」
「そうだねぇ」
「やっぱりお気に入りなんです？　何枚ぐらい持ってるんですか？　高校の時に買ったジャージですよね？　物持ちいいんですねー！」
　そのうちの一人、伊賀解理が思惑のままに問いかけると、それに乗じるように、椿美咲紀も問いを重ねてきた。

「そうそう、楽でいいから好きなんだよねぇ。シャツに重ねれば、特段怒られることもないし、いいよねぇジャージ。３枚くらいなんだけど、母がちゃんとあらってくれるからねぇ。物持ちいいというより、作品作っている時とかずっと着ているから無くさないって感じかなぁ」
「わかります！　作業着として優秀ですもんね。私も庭作業に愛用してますとも。そのために多めに買ってありますとも。卒業しても買いに来ちゃ駄目かな？　とか思ってたりしますし」
　ちょっとお洒落かどうかは……ですけど……と小さくつぶやく美咲紀の声は、どうやら川添先生には届かなかったらしい。

「気に入っているってよりは、実用って感じなんですね。でも、やっぱり下はスラックスより対のジャージの方がいい気もするんですが。……違った！　それはさておき！」
　解理もまた、美咲紀に乗っかるように、再び口を開いた。

　彼女には目指すべき到達点があるのだ。
「先生のジャージ、今のジャージとは少し違う気がするんですが」
「え、そうかなぁ？」
　同じようなデザインだと思うけど……そう言って自らの服装を見直そうとする川添先生。
　しかし解理にとって、同じデザインであったとしてもそれはそれでよいのである。
「いやぁ、違うような気がします。もっとよく見たいから、すみません、一度脱いでもらってもいいですか？」
　ささ、チャックをずずいと下ろしていただいて。
　首をかしげながらも微笑みと共に「いいけどねぇ」という川添先生。
　それこそがまさに狙いであった。

　この授業の直前までで、解理が川添先生について知ってる事。
　一つ、新しい担任である。
　一つ、彫刻が上手いらしい。
　一つ、寝子高四人目のジャージ系先生である、
　一つ、雰囲気とか色々ゆるい。
　そして最後の一つ、胸部装甲は厚くなさそう。（重要）
　そう、最後の部分は「これから友好を築く上でかなり重要だ……！」として是が非でも確認せねばならない点であった。
　でも相手は常にジャージを羽織っているから、今一つ正確にはわからない。

　……なら逆に考えるんだ。脱がせればいいと。

　かくして解理一人のたくらみとして始まったのが、まさに今繰り広げられた「ジャージを確認するふりして胸を確認しようの計」である。
　……なんて自然な流れだろう。孔明だっておったまげてスタンディングオベーションするレベルじゃなかろうか。
「はい、どーぞ」
　そんなことを考えているとは露とも考えず、す、と自然な動作で上半身を反らしつつ脱いだ川添先生。それは自然と胸がそのありようを強調される脱ぎ方でもあった。

「うわぁ……」
　一瞬、言葉を失った解理。
　先生は実は着やせ！　と心のメモに刻み付ける美咲紀。

「――どうかした？」
「い、いーえー！　いや、やっぱりあんまりデザイン変わらないんですねー。先生が来てるからなんだか違って見えたのかもしれません！　あはははははははは、はぁ……」
　笑いつつも、最後に思わずため息を付いてしまう、解理であった。