「……ねぇ、知ってる?」
今日は風が強いなー、などと想いながら風から逃れるべく寝子島シーサイドタウン内の書店へと逃れた時のことだった。最近あんまり聞かなかった、だけど間違いなく聞き覚えのある声が書棚の向こうから聞こえてくる。
「寝子高で、二宮金次郎の銅像が100mダッシュしてたんだってー」
「何その、昔懐かし学園七不思議。そもそもいたっけ、にのみー」
雑なあだ名だなおい。
「ほんとだってー、ちゃんと聞いたし!」
めげずに主張するも、どうだかと返す相方。
「そういえば銅像っていえばさ、今度新しく来た美術の先生いるじゃない? 専門、彫刻なんだって。かっこよくない? こう、職人的な、アレでソレな」
あれ、もう終わりですか七不思議。新入生が入ったばかりであれこれろくでもない噂が流れまくる時期ってところなのかな。ぺら、と雑誌のページをめくりながら、聞くともなしに耳をそばだてていたのだが、女子高生の話題の切り替わりってはやいよねぇ。
「あんた好きだよねー、すごかけんね的な番組」
「……そんなタイトルだっけ」
そこは突っ込んではいけない。
「それにあの先生、男だとおもったら、女の人なの」
「え、あのジャージにサンダルで残念な人だよね?」
「そう。ゆるふわ金髪の若くて長身でイケメンで、僕っ子な」
高校も大学も卒業して長い身としては、同年代らしき当該人物の特徴に、痛いというべきか、属性多いなとツッコミをいれるべきか、色々思い悩むべきところかもしれない。
「でも彫刻かー……彫刻って、どういう風にやるの? 粘土こねてこう丸い板に乗せてすーっと立ち上げる的な?」
それは作陶だと思う。
「……あんたみたいな人向けに、今度授業やるらしいから参加しなよ」
ため息とともに、片割れが言うと、「えー、やだよー美術苦手ー」との声を上げながら、レジの方へと気配がむかう。
――しまった。また、顔を見忘れた。
それから数日ほど時は流れた寝子島高の一角。
噂話をされていた、
川添 かおる先生が工芸室でぼけーっと生徒たちの様子を見ている。
今から始まるのは、学年を問わず誰でも参加できる単発の特別授業「はじめての彫刻」。
さぞかしその準備に忙しいのかと思いきや、ただただぼけーっとどこかを見ているようだった。
何か気になることでもあるのだろうか。
キーンコーンカーンコーン。
「――あ。やぁどうも。ええっと、彫刻の授業ということでー、まずは正しいデッサンから」
鐘の音とともにハッと我に戻ったのか、ようやくごにょごにょと話し始める。
「……なんてのは面白くないよねぇ」
が、どうやらまじめぶる必要もないんじゃないかと思い直したようだった。
唐突に立ち上がると、にやにやとした笑いを浮かべて、窓の外を指さした。
「みんな、外に出よう。材料を探しに行こう~」
何か材料になりそうなものを探して、それを切ったり掘ったり繋げたりして、自由に作ることからはじめよう、というわけだ。
「作品の作り方や材料は自由だよ~。だけど、テーマだけは決まっているから意識してねぇ~」
そういって板書されたテーマは、『願い』。
「さ、それじゃ適当におしゃべりでもしながら、散歩がてら外に行こっかぁ」
それぞれの願いについて、あるいは関係ないことでもなんでもいい。お喋りしながらみんなで散歩でもしようじゃないか、何せこんなに天気がいいのだからと、その表情が語っていた。
寝子高の校内から寝子ヶ浜海岸まで、道すがらを、ぶらぶらと。
授業らしからぬ授業であるが、参加者の大半にとっては、思いもかけぬ楽しさを感じる機会になることだろう。あるいは、共に参加したものの知らない一面を知ることとなるのかもしれない。
さっそく、わいわいと教室を出て行く生徒たち。
川添先生はそんな彼らの後ろについて歩きだしながら、またまたぼけーっとどこかを見つめて、ぽつりとこぼす。
「さっき、作品がふわふわ浮いてた気がするんだよねえ……おもしろいねぇ」
気のせいかなぁ、と呟きながらも、ぶつぶつと独り言。
「五十嵐先生の頭から小鳥が出てきたのも……うんうん、おもしろいよねぇ」
たまたま彼女のすぐ近くにいたもれいびの生徒は、それを聞いてハッとした。
もしかして、川添先生はもれいびになりかけている……?
こんにちは、こんばんは、はじめましてもお久しぶりの方も、蒼李月でございます。
月日が経つのは早いですね。
リアルの感覚では年度末に生きていたつもりが、気づけばもう世間は夏まっさかりでございました。
寝子島はまだ四月中旬なのでほっとします(?)
というわけで、久方ぶりのガイド公開となりますが、よろしくお願いいたします。
さて、このシナリオは、『せんせいといっしょ』シリーズの川添先生編です。
新任教師、川添先生はどんな先生でしょう。
妙に居心地のよさそうな雰囲気ですが、ろっこんを理解し始めている様子も……?
▼場所
寝子高の校内からのんびり歩いて海岸周辺まで。
授業を受けてる生徒はもちろん、受けてなかった生徒もついでに加わったりできます。
校外に出てからは、生徒でなくても参加できます。
たまたま行き会った先生や生徒さんと、なんとなくどちらからともなく声をかけて、
いっしょに散歩したっていいではないですかー。
校外での課外学習扱いとなりますが、川添先生は多分そんなことは気にしない方なのです。
▼内容
・作品作りの材料になりそうなものを拾い集める。
・その合間に、各自でお喋り。先生ともお喋り。
・その合間に、休憩したりお茶したり。
・海岸でまだ冷たい海水に触れてキャッキャしたり。
・川添先生は生徒たちの間をふらふらと動き回ることでしょう。
近くにきたら、報告やアドバイスを求めたりをしてもよいかもしれませんね。
……熱心に応じるかは不明ではありますが。
※参加者がずっときっちりまとまって移動するわけではなく、適度にばらけたり集まったり。
ルートもおおまかにゴールだけ決めている感じなのです。
※拾い集めたもので作品を作るはずですが、シナリオで描かれるのは海岸までの予定です。
先生は力尽きてそこから自習になる気もします。
▼おまけ
川添先生はもれいびになりかけている様子です。
自分のろっこんは気づいてないけど、他の人のろっこんはよく見えてるっぽい。
今のところ、ろっこんという不思議なものを自然体に受け入れてしまう、ちょっとゆるい先生ですね。
さてさて、新任教師はどんな人でしょうか。どんな交流ができるでしょうか。
さりとて単に彫刻に興味があるんじゃーい、単にデートがしたいんじゃーい、と、先生とあまり交流しないで、1人または友だちと授業や散歩を楽しむのもOKです。
川添先生とのんびりお待ちしてます。