フシギハザード　SEASON CRISIS!!｜リアクション

フシギハザード　SEASON CRISIS!!

■八神修のシーズンクライシス
　スマホをポケットにしまい込み、修は考え込んだ。
「最近、どうにも妙なフシギ現象が続いているな……」
　ねこったーで話題の『イタズラさん』。
　人にとりついてイタズラをはたらくというフシギ存在だ。
　桜の木を造花で飾り、散らない桜を作るという事件。
　花壇の花を冬花に植え替えてしまうという事件。
　夜に花見デートをするカップルを変質者が襲う事件。
　ＣＤショップから新譜が消えてしまう事件。
　どれも致命的な被害は出ていないが、日常を静かに破壊するような事件だ。
「小さいイタズラでも、積み重なればフツウが歪む。少し、見回りをする必要があるかな」
　椅子から立ち上がり、修はこきりと首を慣らした。

　修が目をつけたイタズラ事件、というものはなかった。
　彼は日常的な行動の一環として校内を見回り、不審な動きをする生徒がいないかを探すことにした。
　幸いなことに、イタズラさんにとりつかれた人は顔が黒いモヤモヤに覆われると聞く。見て分かる程度の特徴なら、見回りで充分フォローできるのだ。
「けれど、心配なのはとりつかれた本人へのケアだな。責任能力の無い状態だと証明することができないかもしれない」
　イタズラをしたことで本人の日常そのものが壊れ、本当に非行に走ってしまうというケースも考えられる。
　であれば、真相を知っている自分が見つけ、阻み、そして取り憑かれた当人に責任を問わないことが筋ではないだろうか。
「……それでいこう。出来ればよそに露見しないようにしてあげたいね」

　見回りの成果はすぐに現われた。
　放課後の校内。春の訪れを告げる校内新聞に手をかける生徒を発見したのだ。
　顔が黒いもやもやで覆われていることからも、それがイタズラさんによるものだということは明らかだ。
「やあ、こんな時間まで残ってるなんて珍しいね」
　何気ないそぶりで話しかけ、笑顔を見せて近づいていく。
　相手は何かを腰の後ろに隠したが、修はそれを見逃さなかった。
　ピン、と指を弾く。すると分解能力が発動して、相手が腰の後ろに隠していたマッチ箱が分解された。
　具体的には外箱内箱が外れたのだが、それだけで中身は床にぶちまけられた。
「しまった！」
　慌てて逃げ出そうとする生徒だが、修は素早く組み付いてその場に組み伏せた。
　知識をため込んだ修にとって、取り乱して背を向ける人間を組み伏せることはたやすいのだ。
「新聞を燃やそうとしたのかな？　マッチをこすってないところからすると、この場でってワケじゃなさそうだけど……」
　すると、生徒から黒いもやもやが消えた。イタズラさんが出て行ったようだ。
　修はため息をつくと、散らばったマッチ箱を操作して元の状態に戻し、自分のポケットへとしまった。
　生徒は気を失ったようで目を覚まさない。
「仕方ないな。保健室まで運んでいくか」
　修はやれやれという様子で生徒を抱えると、保健室へと歩き始めた。

　後日談。
　イタズラさんがとりついていたのが新聞部の生徒で、自分のてがけた記事に誤植があったことが後から分かった。
　もしかしたらそれを隠したい気持ちがイタズラさんを呼び寄せてしまったのかもしれない。
　修は新しい校内新聞を読みながら、小さくため息をついた。
「イタズラさんの事件は、それに気づいた皆の力で解決したらしいね。けど、イタズラさんのやったのはあくまで人を操ることだけ。また別の形で、同種のフシギ存在が新しい事件を起こすかも知れない。もう暫く、見回りが必要かな……」
　修はポケットの中のマッチに触れると、見回りのために歩き始めた。

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