フシギハザード　SEASON CRISIS!!｜リアクション

フシギハザード　SEASON CRISIS!!

■風雲児轟のシーズンクライシス
「何ッ！？　夜にカップルが公園でデートしていると『魔性の桜の精』が襲ってくるだって？　まさか……イタズラさんの仕業か！」
　カフェでゆっくりとコーヒーをたしなんでいた轟は、スマホをにらんで立ち上がった。
「行かれるのですかな」
「ああ……」
　カフェのマスターが穏やかに微笑み、轟は小銭をカウンターに置いて笑った。
「誰かがヒーローを待っている。そんな気がするんだ」

　自転車が風を切る。流れていく風景と、風を追い越す自分を感じながら、轟は古いヒーローショーを思い出していた。
　舞台でもなんでもない、どこかの駐車場で繰り広げられた特撮ヒーローショー。
　メイクをした悪役が子供を抱えて人質にとり、高笑いを浮かべて子供を脅かす。
　けど悪役の男は小さな声で、子供にこう耳打ちした。
『ヒーローがやってくる。だから大丈夫だ』
　当時はそれがひどく不思議に思えた。
　後に彼らは仕事でやっているから子供がわめかないように事前にネタバレしたのだと思ったものだが、高校生になった今ではまた別の思いを持っていた。
　悪はヒーローを待っている。
　自らが悪を成す時、彼らはそれを正す誰かを待っているのだ。
　厳しく叩き付け、社会からはき出してしまうただの民衆ではなく。
　力強く戒め、そして良き道を示してくれるヒーローを、彼らは待っているのだ。
　けれどそんなヒーローは世の中にはいなかった。ヒーロースーツを纏って悪をたたき伏せ、最後には手をさしのべてくれる彼らはいない。
　いや。
　否。
「ここにいるぜ！　――『戦衣着装』！」

　所変わってこちらは公園。
　桜も散った季節だというのにまだ花がついているというフシギなスポット（その真相は絢編をご覧頂こう）にカップルが吸い寄せられていた。
　花見の季節も終わったのでひとけのない夜にしっぽりし放題だっつってやってきた彼らを出迎えたのは、桜――の木から飛び降りる変質者であった。
　ピンク色の全身タイツにマントを羽織り、桜の飾りをつけたヘルメットを被った彼は、ポーズと共に叫んだ。
「我は魔性の桜の精、フェアリーブロッサム！　リア充どもよ、桜の裁きをうけるがいい！」
「待て！」
　太鼓のバチを取り出したフェアリーブロッサムを、別の声が制した。
　白銀のスーツに身を包む一人の男。
「貴様は！？」
「ザ・ストレイト――島を泣かす奴は、この俺が許さねえ！」
　逃げろとジェスチャーを送ってカップルたちを遠ざけると、轟ことザ・ストレイトはフェアリーブロッサムの前に躍り出た。
「武器を置くんだ。リア充も相応の努力をしている。襲っていい理由はないぞ」
「黙れ！　邪魔をするなら貴様も容赦せんぞ！」
　太鼓のバチをくるくると回し、殴りかかるフェアリーブロッサム。
「サクラオンゲキ！」
　バチとはいえ頑丈な木材だ。直撃をくらえばただではすまない。
　ザ・ストレイトは飛び退き、すぐ近くに刺さっていた園芸支柱（なぜ刺さっていたのかについては美咲紀編がヒントになっているぞ！）を引き抜いて、棒術のように構えた。
「ならば来い！」
　激しい打ち合いが続いた。
　ラッシュにラッシュを重ねるフェアリーブロッサムを、ザ・ストレイトが棒術でギリギリさばいていく。
「トドメだ、超・桜吹雪！」
　造花の花びらを目くらましに散らし、突撃をしかけてくるフェアリーブロッサム。
「甘いぞ、ストレイト・スマッシャー！」
　相手の突きを紙一重でよけ、ボディに拳を叩き込むザ・ストレイト。
　フェアリーブロッサムは膝から崩れ落ちた。

　後日談。
　轟は以前戦いのあった場所へとふらりと訪れた。
　咲いていた桜は造花による誰かのイタズラだったらしく、カップルももう寄りついていない。
　しかしその代わりに、枝葉だけになった桜を見上げておじさんが一人ワンカップ酒をたしなんでいた。
「……あの人も、自分の場所を守りたかっただけなのかもな」
　轟はおじさんの邪魔をしないように、そっと背を向けて立ち去った。

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