フシギハザード　SEASON CRISIS!!｜リアクション

フシギハザード　SEASON CRISIS!!

■青山絢のシーズンクライシス
　春という季節は色んなものを新しくしてくれる。
　新しいクラス。新しい教師。新しい机に新しい教材。
　桜が咲いて散った頃には、みんなその新しさに早くも慣れ始めて、それぞれの時間や空間を作っていく。
　絢はその季節が嫌いじゃ無かった。
　みな桜の散ることをはかなさやむなしさに例えるけれど、絢にとっては一年のページをめくり終えたような、すこしワクワクした季節の象徴のように思えるからだ。
　しかし……。
「変ね、この桜……まだ散ってないわ」
　学校によく植わっているソメイヨシノ桜。正確にはソメイヨシノクローン。
　全ての季節で一斉に花をつけ、一斉に散る。
　そのさまが季節の風物詩であるとして様々な学校に取り入れられているのだが、いくつかの木だけが花を散らさずに五分咲きのさまを残していた。
　花びらに指で触れてみる。
　どうやら接着剤で造花をつけて花が咲いているかのようにみせかけているようだ。
「……」
　悪い、とまでは言うまい。桜の花がいつまでも咲くことを喜ぶ人もいる。万年桜といったか、常に花をつけ続ける桜だってある。
　しかし絢にはどうも、それがひどく野暮ったいことのように思えた。
　だからこそ。
「撮影、しておかなきゃね」
　桜の花がまだついていた。見ればそれは人が無理につけた花だった。それがひどく野暮ったく感じた。
　……という一枚の写真ができあがった。
　この日は、あくまでそれで終わりだったはずなのだが。

　絢は地図に赤いペンで印をつけていた。
　印はいくつもある。その全てが、絢が見つけた『散らない桜』のあった場所だ。
「もしかしたらこの現象。『イタズラさん』のしわざかもしれないわ」
　イタズラさんのことはねこったーで知ったのだが、どうやらこれは絢の非日常。放っておける問題では無いと、考えたのだ。
　そしていくつかの散らない桜を観察した所で、犯人像が浮かび上がってもいた。
　まず造花がみな手作りであることと、それが大量にあることから、犯人は複数犯もしくは単独でもかなり長い自由時間をもつ人間となる。さらには作業と保管が可能な広いスペースを有している。
　発見地点が広く、徒歩で移動するのに苦労する距離であること。そして造花を大量に持ち運ぶ都合から犯人は自動車を使っていること。
　そして発見地点を結ぶことで地理的に絞り込むこともできた。
「でも、ここまではあくまで推理。相手もバレることを覚悟してるかもしれないわね」
　ゆえに強行突入はしない。せめて単独犯かどうかを確かめねば。

　そうしてやってきたのは廃倉庫。それも放置されたコンテナハウスである。
　手前には一台の軽トラック。
　カーテンのない窓から覗くと、大量の桜の造花が作られ、箱詰めされているさまが見て取れた。
　そして犯人はまさかの単独犯。顔に黒いもやもやがついた成人女性が、せっせと造花を作っては箱に詰めている。そして箱を掴んで外に出たところで……。
「そこまでよ」
　絢は扉を出たところで声をかけた。
　逃げ出す女性。しかし絢が予め仕掛けたロープの罠にひっかかり、派手に転倒した。
「自分の趣味でやってるなら話し合いもできたけど、わるいものに取り憑かれてるんじゃ、こうするしかないの。悪いわね」
　絢は女性を組み伏せて押さえつけ、イタズラさんを追い出した。

　後日談。
　絢はいつもの下校中、桜の木が修復されているのを見かけた。
　庭師が枝先を落とすことで、桜が再び芽をつけるようにしたのだ。
　そんな作業のなか、庭師が呟いている。
　春先に病気で入院してしまった生徒がいたらしい。桜の咲いた通学路を歩くのを楽しみにしていたが、退院した頃には桜が散りきっているだろうと。
「…………」
　絢はそんな風景を写真に納め、そしてもう一枚……。
　桜が満開に色づいた写真を、ポケットから取りだした。
　そして絢は、病院へと向かう。

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