フシギハザード　SEASON CRISIS!!｜リアクション

フシギハザード　SEASON CRISIS!!

■水川音葉のシーズンクライシス
「はあ！？　春の新譜、一枚もないの！？」
　ＣＤショップを訪れた音葉は、棚にぽっかりと空いた穴を見てがっくりと肩を落とした。
　なんでも春のＣＤがごっそり盗まれ、棚から消えてしまったというのだ。
　四季というのは偉大なもので、古来から四季の移り変わりは必ず音楽になった。
　特に春は新生活の始まりや恋の高まりを感じさせるということで曲を作るアーティストも多く、そうでなくてもなんだか気分がそわそわして新譜を書いてしまう時期である。
　音葉は桜の散る様や雪の降る様ではなく、この新譜で季節の訪れを実感してた。
　だというのに……。
「こんなんじゃ、春って感じが全然しないよ。ハッ、これって」
　ののこが言うフツウの毎日。
　それは当たり前のことが当たり前にあって、みんなフツウに過ごしているそんな日々だ。
　しかしそれはちょっとしたことで崩れ、歪んでしまう繊細な紙細工のようなもの。
「季節の新譜を誰も聞けない、か。こういうのが、フツウが壊れるってことなのかな……」
　当たり前のものが無くなっていく。壊れていく。奪われていく。
　音葉はそんな真実に、ぶるりと肩が震えた。
　そして、手をぎゅっと握りしめる。
「だったら、守らなきゃね。このフツウを」

　音葉がまず最初にやったのは、ＣＤショップに潜り込むことだった。
　バイトとして働いて、店内の様子を裏から探るのだ。
「この立場なら、ずっとお店を監視できるよね」
　音葉は棚に春らしさ１００％のＣＤケースを仕込み、そっと物陰から様子をうかがった。
　すると。
「おや？　こんなＣＤ扱っていたかなあ」
　ＣＤを手にとる一人の男。それは……。
「店長！　えっとそれは……」
「記憶にないなあ。ちょっと確認してくるね」
　店長はそう言って、店の裏口へとＣＤを持って行った。
　しかし。
　その店長の顔が、ケースを手に取った瞬間から黒いもやもやに覆われたのだ。

　店長は店の裏に入ると、持っていたＣＤをそっと自分の鞄にしまいこんだ。
「もしかしたらそうじゃないかって、思ったよ」
　音葉の声だ。
　店長が慌てて振り返ると、音葉はもう一枚のＣＤを翳して言った。
「ＣＤをまるごと奪うなんてお客さんにはできない。できるとすれば、内部の犯行だよね。だからって、店員さんがまるごと持ち去ったらバレちゃう筈。それをやっても不自然じゃない人物。それは今、一人しか居ないよ！」
　びしりと指さす音葉に、店長は後じさりした。
「……ここまでか」
　がくりとその場に膝を突く店長。そして彼の身体からイタズラさんが抜けていった。

　後日談にして、トゥルーエンド。
　音葉は事件を解決してすぐショップをやめようとしたが、店長が『君センスあるから！　ね！　続けよ？　ポップ書こ！？』て泣いてすがってくるもんだから暫くバイトは続いていた。
　店長が盗まれたと言っていたＣＤはどうやら倉庫の端っこに隠されていただけだったようで、それらは今しっかりと店頭に並んでいる。
　当の音葉はといえば、春の新譜を無事ゲットして毎日ノリノリで過ごしていた。
　だがそんなある日。
「あれ？　これって売り物じゃないよね」
　音葉が倉庫の隅で見つけたのは、葉桜がまぶしいジャケットのＣＤケースだった。
　コードがついていないので自主制作っぽいが、誰のものだろう……と裏を読んでみると、そこには店長の名前が書いてあった。
　ふと思う。
　もしかして、自分のＣＤに注目されたかった気持ちがイタズラさんを呼び寄せちゃったんだろうか。
「まさかね」
　音葉はＣＤを手に、店長の所へと歩き出した。

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