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パラダイスキーパー ～翼ある護り手達と絶望凍る湖～
戦況は、徐々に一行の有利に傾いていった。
呉井 陽太が小石の投擲で魔物の気を引き、敵の次の手は華城 尊がそつなく読む。
壬生 由貴奈と新田 亮はろっこんを駆使し、魔物の翼に癒えぬ傷を着実に増やしていった。
「次は風の刃が来るぞ！」
「っしゃ！ 任せろ！」
尊が叫び、楢木 春彦が左耳のピアスを二度撫でる。
その翼付近に見えない足場が作り出され、魔物の目論見は不発に終わった。
「皆、そろそろだ！」
魔物の身体がガクン！ と傾いたのを見留めて、八神 修が声を上げる。
――オオオオオオ！
殊更憎々しげに吠えながら、魔物はゆっくりと下降していった。
ずしん、と地を揺らす音。
みしみしと、炭化した木々が鳴る。
己の黒い血に塗れた大地に、魔物は遂に落とされた。
「ムク、まだ大丈夫かい？」
「ミケも、あんまり無理しちゃダメだよぉ？」
陽太が翼獣ムクに、由貴奈が翼獣ミケに声を掛ける。
けれど、２頭とも、まだ闘志を衰えさえてはいない。
亮と共に在る翼獣も気概のほどは同様で、
「よし、このまま押し切るぞ！」
との亮の言葉に、オオウと闘志に満ちた叫びを上げた。
（『発動』！ 『倍化』！）
空気を吸い込み、息を止める。
そのまま、今度は翼ではなく魔物本体にダメージを与えようと接近すれば、
――ギアアアアアッ！
狂ったような叫びと共に、前足での、薙ぎ払うような一撃が亮に迫った。
けれど、どんなに強力な攻撃も、当たらなくては意味がない。
一時的に跳ね上がっている動体視力で敵の動きを見定めて、亮は翼獣の右脇をとん、と軽く叩いた。
ろっこん発動中は口を開けない亮からの、無言の指示。
翼獣はきちりとそれに従って、するり、魔物の薙ぎを避けてみせる。
「……ふう」
一度深く呼吸をして、再びのろっこん発動。
そうして亮は、魔物の左目に向かって、小石をひゅんっ！ と投擲した。
魔物が、最早形容さえし難いような、聞くに堪えない悲鳴を上げる。
潰れた左目から、どくどくと濁った黒が垂れ落ちていくのを目に、亮は一旦退いた。
「いい具合だな。俺も、そろそろ接近戦に……」
敵の撹乱に動いていた修が木刀代わりの枝をシュッとしならせた、その瞬間。
「……何だ？ おい、また何か来るぞ！」
尊が、異変に気付いた。
魔物が、すうと息を吸い込んだのだ。
初めて見る予備動作は尊の胸にざわめきを呼んだが、警戒を促す以外に零せる言葉もない。
魔物が、残った右目を、カッと見開いた。
――オオオオオオオオオウ！
咆哮が、大地を、空気を、一行の頭の中を、かき回すように激しく揺らす。
耳触りの悪い叫びはこの戦いの内に何度も聞いたが、これほどの威力のものは初めてだ。
「ぐ……！」
尊が、堪らずその場に膝をつく。
翼獣に騎乗した一行も、さして効果がないとは理解しながらも、耳を押さえずにはいられなかった。
翼獣達が、背中に乗った相棒を落とさぬようにと残った力を振り絞って、それでも地面に落ちていく。
一気に戦線崩壊した一行を、魔物の前足が抉るように薙ぎ払わんとした、その刹那。
「負けて、たまるかああああっ！」
咆哮の尾を掻き消すような叫びが、戦場へと凄まじい速度で近付いてきた。
じきに姿を現したのは、翼獣カイの背に乗った卯木 衛だ。
「うーちゃん！」
まだわんわんとする耳にそれでも衛の声を捉えて、由貴奈がその名を呼ぶ。
そんな由貴奈へと、衛は弾けるような笑みを向けた。
そうして、カイから跳び下りるや爪先で地面を蹴り、
「ほら！ こっちだ！」
ぴょん！ と身軽に跳び上がって、魔物を翻弄してみせる。
魔物の爪が、向こうからしてみれば不穏な闖入者たる衛を捉えようとするも、
「カイくんナイス！ ありがとうな！」
という具合で、すかさずカイが衛を背に受け止めて、爪の一撃をひらりとかわした。
「皆、ごめん！ 遅くなった！ でも――」
「翼獣達は、皆無事なのですよ！」
衛の言葉を引き取ったのは、彼に少しだけ遅れて駆け付けた椿 美咲紀だ。
傍らには、翼獣ルークも勇ましく付き従っている。
「美咲紀……」
修が、ほっとしたように声を零した。
長くしなる木の枝を勇ましく魔物へと向けて、美咲紀は魔物を睨み据える。
「あの獣をさくっと倒して、皆で一緒にここから脱出しましょう！」
「上等だ！ なあ、カイくん。アイツが絶望だっていうならさ、笑おうぜ！」
翼獣達や仲間を傷つけられたことへの怒りは大きい。
けれど、《絶望》に屈する気は、衛には更々ないのだ。
くるる、くぅ！ とカイが鳴く。
いつの間にか、戦場が纏う空気が今一度変わり始めていた。
呉井 陽太が小石の投擲で魔物の気を引き、敵の次の手は華城 尊がそつなく読む。
壬生 由貴奈と新田 亮はろっこんを駆使し、魔物の翼に癒えぬ傷を着実に増やしていった。
「次は風の刃が来るぞ！」
「っしゃ！ 任せろ！」
尊が叫び、楢木 春彦が左耳のピアスを二度撫でる。
その翼付近に見えない足場が作り出され、魔物の目論見は不発に終わった。
「皆、そろそろだ！」
魔物の身体がガクン！ と傾いたのを見留めて、八神 修が声を上げる。
――オオオオオオ！
殊更憎々しげに吠えながら、魔物はゆっくりと下降していった。
ずしん、と地を揺らす音。
みしみしと、炭化した木々が鳴る。
己の黒い血に塗れた大地に、魔物は遂に落とされた。
「ムク、まだ大丈夫かい？」
「ミケも、あんまり無理しちゃダメだよぉ？」
陽太が翼獣ムクに、由貴奈が翼獣ミケに声を掛ける。
けれど、２頭とも、まだ闘志を衰えさえてはいない。
亮と共に在る翼獣も気概のほどは同様で、
「よし、このまま押し切るぞ！」
との亮の言葉に、オオウと闘志に満ちた叫びを上げた。
（『発動』！ 『倍化』！）
空気を吸い込み、息を止める。
そのまま、今度は翼ではなく魔物本体にダメージを与えようと接近すれば、
――ギアアアアアッ！
狂ったような叫びと共に、前足での、薙ぎ払うような一撃が亮に迫った。
けれど、どんなに強力な攻撃も、当たらなくては意味がない。
一時的に跳ね上がっている動体視力で敵の動きを見定めて、亮は翼獣の右脇をとん、と軽く叩いた。
ろっこん発動中は口を開けない亮からの、無言の指示。
翼獣はきちりとそれに従って、するり、魔物の薙ぎを避けてみせる。
「……ふう」
一度深く呼吸をして、再びのろっこん発動。
そうして亮は、魔物の左目に向かって、小石をひゅんっ！ と投擲した。
魔物が、最早形容さえし難いような、聞くに堪えない悲鳴を上げる。
潰れた左目から、どくどくと濁った黒が垂れ落ちていくのを目に、亮は一旦退いた。
「いい具合だな。俺も、そろそろ接近戦に……」
敵の撹乱に動いていた修が木刀代わりの枝をシュッとしならせた、その瞬間。
「……何だ？ おい、また何か来るぞ！」
尊が、異変に気付いた。
魔物が、すうと息を吸い込んだのだ。
初めて見る予備動作は尊の胸にざわめきを呼んだが、警戒を促す以外に零せる言葉もない。
魔物が、残った右目を、カッと見開いた。
――オオオオオオオオオウ！
咆哮が、大地を、空気を、一行の頭の中を、かき回すように激しく揺らす。
耳触りの悪い叫びはこの戦いの内に何度も聞いたが、これほどの威力のものは初めてだ。
「ぐ……！」
尊が、堪らずその場に膝をつく。
翼獣に騎乗した一行も、さして効果がないとは理解しながらも、耳を押さえずにはいられなかった。
翼獣達が、背中に乗った相棒を落とさぬようにと残った力を振り絞って、それでも地面に落ちていく。
一気に戦線崩壊した一行を、魔物の前足が抉るように薙ぎ払わんとした、その刹那。
「負けて、たまるかああああっ！」
咆哮の尾を掻き消すような叫びが、戦場へと凄まじい速度で近付いてきた。
じきに姿を現したのは、翼獣カイの背に乗った卯木 衛だ。
「うーちゃん！」
まだわんわんとする耳にそれでも衛の声を捉えて、由貴奈がその名を呼ぶ。
そんな由貴奈へと、衛は弾けるような笑みを向けた。
そうして、カイから跳び下りるや爪先で地面を蹴り、
「ほら！ こっちだ！」
ぴょん！ と身軽に跳び上がって、魔物を翻弄してみせる。
魔物の爪が、向こうからしてみれば不穏な闖入者たる衛を捉えようとするも、
「カイくんナイス！ ありがとうな！」
という具合で、すかさずカイが衛を背に受け止めて、爪の一撃をひらりとかわした。
「皆、ごめん！ 遅くなった！ でも――」
「翼獣達は、皆無事なのですよ！」
衛の言葉を引き取ったのは、彼に少しだけ遅れて駆け付けた椿 美咲紀だ。
傍らには、翼獣ルークも勇ましく付き従っている。
「美咲紀……」
修が、ほっとしたように声を零した。
長くしなる木の枝を勇ましく魔物へと向けて、美咲紀は魔物を睨み据える。
「あの獣をさくっと倒して、皆で一緒にここから脱出しましょう！」
「上等だ！ なあ、カイくん。アイツが絶望だっていうならさ、笑おうぜ！」
翼獣達や仲間を傷つけられたことへの怒りは大きい。
けれど、《絶望》に屈する気は、衛には更々ないのだ。
くるる、くぅ！ とカイが鳴く。
いつの間にか、戦場が纏う空気が今一度変わり始めていた。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2017年09月17日
- 参加申し込みの期限
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- 2017年09月24日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2017年09月24日 11時00分
